プロローグ

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プロローグ

 春休み初日の部活の練習はハードだった。俺は汗まみれの練習着が入ったスポーツバッグから鍵を取り出し、玄関の扉に差し込んだ。あれ? 手ごたえがない。既に鍵は開いていた。  今日は平日だ。朝、母はいつも通り仕事に行ったのに。 「ただいまー」  母は帰宅しているようで、朝履いて行ったベージュのパンプスがある。そして見慣れない靴も二足——銀色のローヒールと、男の革靴。奥からは棚を開けたり閉めたり、何かを探しているみたいな落ち着きのない音がしていて、俺は眉をひそめた。 「あ、大和。おかえり……」  出てきた母はそわそわしていて、何か良くないことが起こっている感じがした。 「大和くん、こっち来て座って」  キッチンから、レイさんこと、辰巳(たつみ)礼子さんが顔を(のぞ)かせた。彼女は母の勤める辰巳弁護士事務所の先生の奥さんで、母の上司というのか立場はよく分からないけど、十歳も違う母が姉妹のように仲良くしている人だ。よくこのアパートに来て二人でお茶してるから、俺もよく知っている。
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