寿結愛の結婚相談所~ひまわりの魔法~

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 店のドアをあえて重たい木の扉にしたのには、理由がある。それは店内に入ってくる人間の、意思を確認するためだ。  閉まっているのではないかと思うほど重たい扉は、意思の弱い人間を、文字通り門前払いする。  それでもコンコンと何度もノックをしてきたり、なんとか力を込めて押し開け、自らの意思で一歩を踏み出した人間にこそ、幸せは訪れる──。  にゃぁ。  美里がグッと力を込めて扉を開けた瞬間、聞こえたのは猫の鳴き声だった。薄暗い間接照明の中、声のする方を見ると、丸いテーブルの上に一匹の黒猫が行儀よくお座りをしている。 「そちらの猫がいるテーブルの、サングラスをご利用ください」  薄暗い店内の奥にあるカウンターから、背を向けた、女の声がする。  美里がサングラスをかけると、黒猫が合図のように、にゃぁと鳴いた。 「かけられましたか?」 「はい」  女は振り返ると「こちらへどうぞ」と、椅子を引いた。  黒猫は美里の前を導くように歩き、椅子の上に一旦お座りをしてから、カウンターの上にちょこんと座った。その横には夏らしく、ガラスの花瓶に二本のひまわりが、仲良さそうに活けられている。 「はじめまして、相談役の寿(ことぶき)です。今日はお暑い中、ようこそおいでくださいました」  差し出された名刺を見て、美里は汗ばんだ頬を緩めた。それをわかっていたかのように、寿が笑いかける。 「漫画の主人公みたいな名前でしょ?」 「え?」 「よく言われますから」  名刺には、美しい水引のイラストが描かれている。その中心に書かれている『寿結愛(ゆめ)』という文字を見ると、それは小さなご祝儀袋のようにも見える。  結婚相談を生業とする寿に、あまりにもピッタリの名刺を見た美里は、ふたたび口元を緩ませた。 「ご予約いただいた、美里さんですね? どのようなご相談でしょうか」  寿の穏やかな目と、黒猫の興味深そうな眼差しが、美里のサングラスの向こう側にある目を見据えた。
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