幸せ太りした姉の代わりとして新婦役を引き受けたら、姉の夫と見知らぬ男が姉の振りする私の取り合いを始めました。ただ、私はあくまで姉の身代わりなので巻き込まないで下さい。

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「ちょっと待ったあ!」  挙式も終盤に差し掛かった頃、後は誓いのキスをするだけという時に、突然、教会を模した式場の扉が大声と共に勢いよく開かれた。  これには式場のスタッフだけではなく、参列席にいた誰もが扉を振り返ったのだった。  私も何事かと扉に目を凝らすと、そこには背後に慌てた様子のスタッフを引き連れた一人の人間が立っていたのだった。 「なんだなんだ?」 「余興か?」  参列席にいた人達が、ヒソヒソと話す声が私のところまで聞こえてくる。  逆光で顔は見えないが、声や立ち姿からして、多分、私と同じくらいの年齢だろう。どしどしと大股で歩く姿からして男だろうと想像する。 (あの人、誰だろう……)  声の主は引き留める式場スタッフを物ともせずに、ズカズカと会場に入ってくる。 「お客様、困ります!」 「お客様!」  式場スタッフも、急な事態にどう対処したらいいのか分からないらしい。ただ声を掛けるばかりで、声の主を止められないでいた。  そんなスタッフが繰り返し引き止める声を引き連れるようにして、声の主は新婦である私の元に近づいて来たのだった。  近づいて来ると、その姿がはっきりと見えてきた。  式場に乱入してきたのは、大柄の男だった。 「みどりさん」  隣からタキシード姿の芳樹(よしき)さんに声を掛けられる。 「ここは僕に任せて」  芳樹さんは小声で言うと、私の元から離れて、私達の側までやって来た乱入者の前に立ちはだかった。 「ぼ、僕の、み、みどりに、何か!?」  芳樹さんの裏返った声が、これを余興だと思っていた招待客たちの騒ぎ声を一瞬で掻き消す。誰もが興味津々といった様子で、芳樹さんと乱入者を見ていたのだった。 「なんだ。アンタ?」  頭一つ分、背の高い乱入者に睨まれて、芳樹さんは及び腰になっていた。 「ぼ、ぼくは……みどり……の結婚相手だぞ。伴侶だぞ……」 「ああっ!」  乱入者に睨まれたことで、芳樹さんの膝は震えて、まるで蛇に睨まれた蛙の様に縮み上がっていた。 (駄目だ。これ……)  私は内心で小さく溜め息を吐くと、「みどり」の夫となる芳樹さんと乱入者を見比べる。  すると、私に気づいた乱入者が、「警察を、呼ぶぞ……!」と、声を震わせている芳樹さんを抜かして、私の元にやって来る。  私も覚悟を決めたのだった。
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