後日談 ずっと見ていた

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後日談 ずっと見ていた

 穂高は、現世での買い物から戻ってきた美桜と翡翠を、バルコニーで出迎えた。龍の背から下りた美桜は、両手に、膨らんだビニール袋を提げている。すっとそれを取り上げた穂高に、美桜が、 「ありがとうございます。穂高さん」  と、微笑みながら礼を言った。出会った当初、穂高に対し、おどおどとしていた美桜は、今ではまっすぐに視線を向け、自然な態度で接している。 「材料は厨房に運べば良いな? 美桜」  翡翠が美桜に確認をすると、美桜は「うん」と頷いた。その言葉を聞き、穂高はそつなく、 「では、厨房に持って行きます」  と答える。  先に立ってバルコニーから城内へ入っていく二人は、寄り添い合っていて、仲睦まじい様子だ。その姿を見て、穂高は嬉しいと思う自分に戸惑っている。 (翡翠様の婚約者には、芙蓉様がふさわしいと思っていたが……)  血筋も良く、美しい白龍の娘は、昔は泣き虫だったことを、穂高は知っている。  城下で人さらいに連れ去られそうになっていた芙蓉を助けた時、芙蓉は、体の大きなあやかしとやり合い傷だらけになった穂高を見て、「大丈夫? お怪我、痛くない? 痛いの痛いの、飛んでけー!」と、心配してくれた。さらわれかけ、きっと怖かっただろうに。――あの時のことを、昨日のことのように思い出す。  芙蓉は、翡翠と美桜が浅葱に認められるよう、母親の白蓮に働きかけたと聞いた。 (芙蓉様は、あの時と変わっておられない。心根の優しい女性だ)  だからこそ、高貴な龍神である翡翠とお似合いだと思っていた。人間の自分には、手の届かない高嶺の花だと。  考え込んでいた穂高は、バルコニーに取り残されたことに気がつき、 (いけない。厨房に荷物を運ぶのだった)  と、足早に、城内へと戻った。
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