嵐のデビュタント

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嵐のデビュタント

 忘れもしない、16歳になったばかりのとき。  それは長い試練の幕開けだった。  今思えば、デビュタントの日から不吉な気配がした。  朝は清々しい天気だったというのに、侍女に時間をかけて念入りに化粧やドレスを着つけてもらい、ようやく馬車に乗り込むと王宮へ向かう道中から雲が増えていった。  白い雲なんて可愛いものではない、分厚くどす黒い雲が強い風に飛ばされ集まっていく空。  参加者も出そろい、王族への祝辞と挨拶も終え、ダンスが始まったばかりの時、突然どーんという轟音と地響きが会場に響きわたった。  そして、硬い何かがぶつかり、崩れるようなまがまがしい破壊音。  あ。  雷が落ちたな。  それもかなり近い。  悲鳴をあげ中には失神して倒れる貴婦人や令嬢と介抱する紳士で騒然となる中、ナタリアはワインを飲み干した。  ここは堅牢な造りの城だしこんなに都会ならそこまでひどくならないかもと半分願いのようなものをかけていたが、あいにくそうは問屋が卸さないらしい。  事態はどんどん悪化していった。  これは、途中で抜け出すのは困難だな。  まるで神の怒りでもくらっているのか、光っては落ち、光っては落ちする雷とバケツをひっくり返したような雨。  これでは馬も動揺してうまく操れまい。 「離宮の尖塔に雷が落ちたそうだ」  慌てふためいて騒ぐ人々を横目に、ナタリアは食事が並べられたテーブルの前に立ち、手にした皿に盛りつけていった。  さすがは大国とうたわれるレーニエの晩餐。  地元ではお目にかかれない繊細な料理がとりどり並ぶ。 「もう、二度と食べられないかもしれないし・・・」  挨拶回りで離れたままはぐれてしまっていた兄が駆けつけるまで、彼女はせわしなく光が差す窓辺のテーブルセットのこじゃれた椅子にどっしりと腰を下ろし、のんびり料理を堪能した。
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