おまけ 可愛い仔猫を見つけた

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おまけ 可愛い仔猫を見つけた

俺も今年で42歳。若い頃は30過ぎの自分の事なんて想像もつかなかった。 それが今や42歳だと言うのだから驚きだ。 昔の俺は先の事なんか全く考えていなくて、無茶な事ばかりしていた。 世間で言う所の『遊び』と言われる事は何でもやった。勿論法に触れる事以外、だ。その辺はわきまえている。 『夜の帝王』なんて呼ばれてもいたっけ――。自分の黒歴史に苦笑する。 俺の家はとある財閥の流れを汲む旧家で、金に不自由をした事がない。 両親は、最高の教育と最高の環境を与える代わりに俺自身にも最高を求めた。 『遊び』にハマってしまったのもそんな窮屈さから逃げ、少しでもゆっくりと息をする為だったのかもしれない。 だけど、何をやっても誰と居ても息苦しいままだった。ちっとも楽になんかなりはしない。 そのうち『遊び』にも飽きて会社と家との往復をするだけのますますつまらない毎日を送るようになっていた。 それがあの日、ふいに昔行ったあの店のキラキラのカクテルを飲みたくなったのだ。あの店は本来出会いの場ではあるが、昔と変わっていなければ酒や雰囲気を愉しむだけでもいいはずだ。今はもう遊び相手を探す気分でもない。 そのはずだったのに、店に入り最初に目に飛び込んで来たひとりの美しい仔猫。 ひと目で俺は心を奪われてしまった。 その仔猫がよく見えるテーブルに陣取って、当初の目的であったキラキラのカクテルは頼まず普通のウイスキーを頼んだ。 仔猫がキラキラのカクテルを飲んでいたからだ。あのカクテルは味というより目で愉しむものだから、俺はこれでいい。 運ばれてきたばかりのウイスキーをひと口、口に含む。繊細で優しい味が口の中に広がる。 キラキラのカクテルを瞳を細めて見つめる仔猫。それを見ているだけで俺はなんとも言えない気持ちになった。 あんなに遊び倒していた頃は一度も感じる事がなかったこの想い。 ざわざわと胸が騒ぎ、それでいてほわほわと気持ちよく幸せな気持ちになる。はふ…と漏れた息に、息苦しさは全くない。それどころか初めてうまく呼吸ができたような、そんな気さえした。 声をかけてみようか――――。いや、多分そんな事をしてはあの子はすぐに逃げてしまう。『急いては事を仕損じる』と言うではないか。そんな気がして、じっと仔猫の事を見つめるだけに留めた。 やがて仔猫はきょろきょろと店内を見回し、俺と目が合った。 それだけで年甲斐もなくドキドキと胸が高鳴る。 この幸運を逃すまいと、俺は必死に穏やかな微笑みを作り仔猫に贈った。 ややあって自分のグラスともうひとつを持って俺の元へとやって来た仔猫。 近くで見ても愛らしい。今すぐにでも食べてしまいたい。 俺は心の中でぺろりと舌なめずりをする。 「こんばんは、今夜のお相手はお決まりですか?」 声までも美しいとは……もう俺の目にはこの仔猫の事しか見えなくなっていた。 ああこの子を俺のモノにしてしまいたい。 早く、早く。まるで小さな子どものようにこの子が欲しくてたまらない。 だけど、今すぐはダメだ。がっついてると思われたくない。 ゆっくりと、ゆっくりと。 ***** しばらく会話を愉しんでいたが仔猫が酔った為にお開きになりそうで、このまま別れてしまうのは忍びなく、少しの躊躇いの後仔猫をホテルに誘ってみた。 酔った仔猫は常に纏っていた緊張のようなものが取れ、素直に俺にしなだれかかって来た。これを了承と取り、なんとかホテルまで連れ込む事ができた。 さぁこれからだというところで、仔猫は可愛く猫パンチをひとつ残して帰って行った。 ゆっくりと、と思っていたのに仔猫の魅力に焦りすぎてしまったようだ。 去り際、仔猫は自分の事をタチだと言っていたが、そんな訳はない。 自分でも分かっているはずだ。だけどそう言わざるを得ない理由があるという事なのだろうか。 仔猫にどんな過去や理由があったとしても、俺の仔猫の事を愛おしいと思う気持ちは変わらない。 今回は見事にフラれてしまったが、こんな事ぐらいで諦めきれるものではない。それにきっと彼は近い将来俺の事を好きになる。 猫パンチをくらった胸をさすりながら、客観的に見たらこんな絶望的な状態でもはっきりと予感めいたものを感じていた。 彼が俺だけの仔猫になるまで――――あと少し。 -終-
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