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「後夜祭、萌も行くだろ?」
「うん……」
「じゃあ、そろそろ行くか……」
そう言って、机の上に置いたままにしてあった鞄を背負い、教室を出ようとする陽斗の手を、私は迷わずに掴んだ。
足を止めた陽斗が、戸惑っているのが分かる。
「萌……?」
「もう少し、二人きりでいたい……」
まだ、私は肝心なことを伝えていない。
手を放すと、陽斗は真っ直ぐに私を見つめてくる。
照明をつけていない薄暗い教室。
でも、差し込む夕日が、その表情をはっきりと映し出した。
「お前、それ正気で言ってんの?」
「うん……。自分勝手でごめん」
「そうじゃねーよ。そんな風に言われたら、期待してしまうだろ」
「期待したらいいじゃん!!」
核心を突くような言葉を、つい口にしてしまった。
勢いに任せるつもりはなかったのに、そう言わずにはいられなかった。
すると、更に一歩近づいてきた陽斗が、迷いない声で告げる。
「俺、森下とは別れたから」
「……うん」
「その理由、もう分かるよな?」
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