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「俺はあの日から、萌を諦めるなんて少しもできなかった」
「……」
「でも、それでいいんだよな?」
制服越しに伝わってくる、陽斗の鼓動に耳を澄ませながら、彼の胸の中でしっかりと頷く。
すると、私を抱きしめてくれる腕に、更に力が込められたような気がした。
「じゃあ、もう……絶対に離さない」
「うん……」
どれくらい、そうしていただろう。
外はすっかり日が落ちて、暗闇の中で炎が猛々しく燃えている。
暗くなった教室の中、外から入ってくる微かな明かりを頼りに、私たちはゆっくりと顔を近づけた。
初めてのキスを上書きするように、丁寧に優しく時間をかけて重ねてくれる。
他の人がどんなキスをするのか私には分からないけれど、陽斗と唇を合わせていると、頭の中が何も考えられなくなってふわふわしてくる。
ただ唇を合わせているだけなのに、キスって幸せになれる魔法みたいだな……。
「ねえ……」
「ん?」
「……楓ちゃんとも、こういうことした?」
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