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私と私の荷物を乗せた車は、砂利の敷かれた緩やかな坂を下り、舗装された道へ出る。サイドミラーには小さくなっていく、大きく手を振る弟達の姿が映っていた。
「いっちゃんはさ……。家出るとき寂しくなかった?」
前を向いてハンドルを握るいっちゃんのほうを向いて私は尋ねてみる。
「うーん。まぁ寂しくなかったって言ったら嘘になるな。けど、期待のほうが大きかったし、ワクワクはしてた」
そう言ういっちゃんの横顔は、家を出た高校卒業したばかりのころとは違い、すっかり大人だ。あの頃、私はまだ小学生で、いっちゃんを大人だと思っていたけど、今思い返すとそのときのいっちゃんはまだ幼さも残っていた気がする。
きっと今まで、私の知らないたくさんの経験をして来たんだろうなぁ……
私はそんなことを思いながらその横顔に話しかける。
「そっか。私も同じだな。寂しいけど、ワクワクしてる」
「そのうち寂しかったことなんか忘れるくらい忙しくなるぞ?しばらくは羽を伸ばして楽しんだらいい」
フッと息を漏らしていっちゃんは笑う。
「だね。もう来月は社会人になるし、しばらくはいっぱい遊ぶよ!」
私は笑顔で言ってから前を向いた。
なんたって、大学時代ですら門限が早すぎて、友達と遅くまで遊ぶことなどなかったのだ。この残された学生生活の残りを満喫するぞ!と、私はこの先に想いを馳せていた。
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