0.最初の出来事

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0.最初の出来事

「……と、言うことなんだ」 目の前で父が一生懸命に話している姿を、私はポカンと口を開けたまま、ただ眺めていた。そしてその話が終わり、父がそう口にしたのを合図に、私の金縛りは解けた。いや、実際に金縛りにあってたわけじゃないけど、話が飛躍し過ぎてて頭が付いていかなかったって言うのが本当のところだ。 「えっと……。話がよくわからないんだけど……」 さっきまで唾を飛ばす勢いで私に説明してくれていた父は、私の言葉にはぁ〜と深く溜息をついた。 「じゃあ簡単に言おう!」 四畳半程の、本と、何か分からない物達で溢れた小さな書斎に父の声が響く。まるで小さな子供に言い聞かせるように私に顔を近づけると父はまた口を開く。 「とにかくだ。与織(より)ちゃんは、お見合いをして、そしてその相手の動向を探って欲しい。まぁ、スパイってやつだな!」 「……スパイ……」 お父さんはいったい何に影響されたのだろうか? そんな事を思いながら唖然として父の顔を見ると、父は私に伝わったと思ったのか満足気に腕を組んで頷いていた。 全然理解出来なかったんだけど…… 私はそれすら言えず父の顔を見ていた。 朝木(あさぎ)与織子(よりこ)22歳。 この春、はれて就職し明日から夢の都会生活だ!と浮かれていたその日の夜。父に呼ばれて伝えられたのは、 『うちの山を狙っている御曹司とお見合いして、そのスパイをしろ!』 だったのだ。 ちなみに、「これはお父さんとの2人だけの秘密だからな」とそれに笑顔で付け加わった。
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