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すれ違う感情
蝉時雨、ギラギラと眩しい陽射し、額に滲む汗と引き替えに、清々しい朝、半袖の制服、透き通るブラを届けに一度しかない高校二年の夏がやってきた。
「ガラガラガラガラ――ガシャン」
駅から岬坂高校へと続く一直線、生徒達を出迎えるのは商店街の慌ただしい朝の光景。自然豊かな田舎街ゆえ世間を騒がせるような商品など見当たらないが、何処か懐かしさや温かみを感じさせる大切な場所。
「おはよう優斗、お前っ、女の子のスカートばかり覗いてないでちゃんと勉強しろよっ!」
朝の挨拶と共に無茶苦茶な言葉を大声で放つ精肉店の店主。いつもの日課なのか彼も負けじと応戦する。
「今日も帰りに売れ残りのコロッケ買ってやっからよぉ、しっかり働け労働者!」
「馬鹿やろぅ! 売れ残りじゃねぇよ! お前のはキープ、お取り置き、ウチのコロッケは日本一だ」
二人のやり取りを耳に通学する生徒達にも微笑みが広がる中、いつものように背後から幼馴染の愛実が声をかける。
「おはようっ、優斗っ」
「よおっ」
「優斗っ、パンツ見せてあげよっか?」
店主とのやり取りを愛実も聞いていたのだろう、首を少し傾げながらひらひらとスカートを掴み泳がせる。
「ばっ、馬鹿っ!? お前なぁっ」
「ふふっ、冗談よっ。優斗なに期待してるの?」
一瞬にして赤面する彼の姿を楽しそうに見つめる優しい眼差し。優斗はかれこれ十数年、その透き通る瞳にずっと片想いを続けていた。
「優斗、あのね。ウチのクラスの唯ちゃん知ってるでしょ? あの子の事どう思う?」
「えっ……」
突然だった。隣のクラスの桜田唯、時折廊下ですれ違う程度で会話をしたことは無かったが、小柄で地味な彼女の事は何故か記憶に残っていた。
「あぁ、知ってるけど……」
「優斗、私よりも背が低いじゃん。唯ちゃん学校の女子で一番低いんだよ」
女子は自分よりも背の高い彼氏に憧れる様な一般論は理解していたが、それをハッキリと告げられると、俺の恋愛対象は既に学内の女子が八割以上消える事となる。
「いいことあるといいねっ」
意味深な言葉を残し、愛実は話題を変えた。
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