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珍しく晴れた七夕の夜だから、妻のゆっことお祭りに出た。
「ゆっこは願いごと何にしたの?」
「んーん、ゆーくんは?」
「うん。ゆっこがずっと元気でいますようにってね」
「ゆーくんゆーくんも、ずっとずっと元気」
「はいはい」
25歳だけれど、知能は6歳のままのゆっこ。幼い頃に受けた手術中の事故の後遺症だと聞いている。
僕がゆっこに出会ったのは五年前のことだ。両親を病気で亡くしたゆっこだけれど、そんな悲しみなんて微塵も感じさせない明るさで、僕の勤める施設に現れた。そうしてすぐにみんなのムードメーカーになって、去年、僕だけの花になって。夜の生活こそないけれど、僕らは確かに夫婦なんだ。
僕は願う。
『ゆっこより後に逝けますように』
ゆっこを施設でひとりきりにしたくはない。
遠くの笹の葉にこそこそと短冊を結わえたゆっこ。
「ゆっこ、五百円あげるから、かき氷買ってきて。できる?」
「うんっ!」
……今のうち。
どれどれ、ゆっこのお願いは?
《はやく あまのがわ ぱぱままとこ いきたい》
……なんで?
はじっこの方にも、つたない文字。
《ゆーくんこと らくにしたい あげたい》
「……なにこれ」
「ゆーくーん! ゆーくんの好きなの、メロン味ー」
透き通る声、遠いよ、ゆっこ。
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