夕立

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女性が1人、バタバタと出ていくのが見えた。 「男はまだ中にいるみたいだから、 空かないね、515号室」 リネン室兼休憩所で電子タバコを吸いながら ルームパネルを見ていた時子(ときこ)が呟いた。 「おときさん、なんかわっと降りそうだよ」 小さな窓からでも空の急変はよくわかった。 清掃バイトのルビンは空を見上げて驚いていた。 「こりゃ、夕立だね」 「ユウダチ?どんなイミ??」 「夕方に突然わっと降る雨のことさ」 「ふうん…。スコールみたいな?」 「ちょっと似てるかもね。フィリピンじゃ よくあるのかい?スコールは」 「うん。夏の夕方は毎日だよ」 よっこらしょ、と立ち上がった時子は 「さてと。これから忙しくなるよ、ルビン」 「そうなの?」 「夕立が来たら、雨宿りでどんどんお客さんが 来るからね。部屋もどんどん上げてかないとさ」 「アマヤドリ?」 「雨が降って、傘がないから人が来ることさ」 「そっか」 「とにかくベッドとその周りだけキレイにしときゃ 後はやらなくていいから」 「はあい」 「お風呂チームにも声かけてくるわ」 時子がリネン室を出たと同時に 雷の激しい音がした。 続いてザーっと降り出した雨の音がする。 「ホントだ…」 空いていた部屋にどんどん 入室のランプがつき始め、 あっという間に満室になってしまった。 「アマヤドリ、来たね〜」 時子を待ちながらルビンは1人呟いていた。
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