三十五 家族

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三十五 家族

 午後九時すぎ。  飛田佐介たちが帰り、明美は入浴をすませた。ドライヤーで髪を乾かしながら、寝室の田村に訊いた。 「ネエ、なんで話してくれなかったの?」  田村は寝返りうって枕に頭をのせたまま明美を見た。 「明美に心配かけたくなかった。明美が天野さんの店と関わらないと話してたから、俺が関わるのを知らせたくなかった。いろいろ頼まれると断れないんだ・・・」 「じゃあ、私もそうなの。私があなたを好きだと言ったから、断り切れなくなって、今があるわけ?」  明美はドライヤーを切ってベッドに入った。枕を田村の枕に並べ、横になって田村と向き合った。 「そうじゃないよ。俺は明美が大好きだ。ずっとそうだったから、アルバイトしている明美に会いにいってた・・・。そしてたら、大雨でチャンスがきた・・・。  明美だって、俺が行くのを待ってただろう?」 「まあね。今度からなんでも話すんだぞ!。そうじゃないと実家へもどるぞ!」  明美は田村の首に腕を絡ませて田村を抱きよせた。実家には祖父母が居る。早く田村とともに引っ越して、祖父母と入院中の母を安心させたい。もしも、田村が退学になっても、家族がいればなんとかなるさ・・・。明美はそう思った。  六月四日、月曜、朝。  朝食の準備前、明美はキッチンのテーブルに新聞を拡げた。  天野四郎の事件について、飛田佐介たちが話したR署の対応がそのまま記事になっている。容疑者や参考人の話はいっさいなかった。明美は心底安堵した。  それにしても、ノリコの口車に乗って、さんざん他に容疑者がいるようなことをほのめかしていろんなことを言い、警察と飛田さんたちを混乱させた・・・。  省吾め!アンタ、あやうく容疑者になるとこを飛田さんや野本刑事たちに救われたんだぞ!まったく省吾の人の良さにはあきれる!  明美はキッチンから寝室を見た。田村は眠っている。  だけど、そこが省吾の良いところだ・・・。私が何かと省吾の精神面を管理してやらないといけないな・・・・。  そんなことを思いながら紙面をめくった。  おくやみ欄に、五月二十六日土曜日に亡くなった天野四郎の死亡広告が載っていた。喪主は尾田ノリコ。天野四郎の死因は急性心不全とあった。すでに葬儀はすんでいると書かれていた。  その後。  田村省吾、戸田雄一、青山和志の三人は、大学側からなんの処分もなく、無事に卒業し就職した。背後で様々な大きな力が働いた結果だった。そのことを三人は知らなかった。  卒業後。  田村省吾は明美と結婚し、明美の実家から勤務先へ通っている。勤務時間帯がおなじ日は、明美とともに出勤してる・・・。 (了)
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