ぱらぱら 秘密の初恋交換ノート

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 買ってもらったばかりのスマホを没収されたのは、一週間前のことだ。  もう少し詳しく言えば、成績表を返してもらった直後。夏休みが始まる一週間前だ。  中学に入学し、初めての中間テストでは真ん中にしがみつくぐらい。四クラス百五十人中八十番。一学期末テストでの成績が百番にしがみつく百三番。  お母さんが、「携帯なんて持たせなければ良かった。まだ夏空(そら)には早かった」と大激怒。優しいお父さんも助けてくれないほど怒っていた。  そのせいで私は、夏休み直前に、『超簡単数学ドリル』と『数学応用問題集』を渡された。  これを終わらせないとスマホが戻ってこない。  夏休み直前、スマホなしで友達と待ち合わせして遊ぶのは苦しい。悲しい。  夏休み前に、おこづかいカットかスマホ没収かと言われ、絶望の中、泣きながら親に謝っていたら、幼馴染みの信海(うみ)くんがひょこっと顔を出してくれた。 『夏休みにお小遣いが無かったら友達と出かけるのが不便だろ。グループメッセージは、パソコンからでも見れるよ』と教えてくれたので、スマホ没収を甘んじて受け止めて、パソコンでメールやメッセージのやりとりをすることに決めた。 「信海くんに家庭教師お願いしたいぐらいよ」 「あはは。俺、今年は受験ですってば」  柔らかく笑った後、眼鏡の縁を指先で持ち上げた。  幼馴染みの二個上の信海くんは、夏休みは毎日塾らしい。  母の話では、ここらへんで一番の進学校に受験をするらしい。  中学に入学したときに生徒会挨拶で体育館のステージに信海くんが上がったとき、驚いちゃったし、あんな一学期に何回もあるテストで満点とれちゃう人なんだよ、私の幼馴染みって。 「でもおばちゃん、今ってクラスのグループメッセージに参加できないのって、人見知りで大人しい夏空にはリスキーだよ。友達と馴染めなくなって不登校とかになったら、責任取れないでしょ?」 「そんなもんなの?」 「しかも夏休みに新しいグループできたら、さらに人見知りの夏空はうまくグループに溶け込めないかもよ」  信海くん、ナイス!  私が大人しいのは本当だけど、幼稚園から中学まで仲良くしてくれている友達が数人居るから、グループに溶け込めなくても問題が無いのを知っているはずなのに、それを言ってくれるって事は助けてくれてるんだ。  信海くんをにこにこ見ていると、一瞬睨まれた。多分、反省した顔をしないと駄目でしょって合図だったんだ。  私はすぐに口をぎゅっと閉じて俯いた。 「そうねえ。じゃあ一番悪かった数学の問題集を終わらせたら返してあげようかしら。うーん。必要ないと思うけどねえ」 「必要しかないよ!」  私の発言に、小学校六年と四年の妹たちも加勢してくれた。  私が禁止されてしまったら、中学に上がるときに自分たちも禁止されてしまうから、避けたいらしい。  でも頑張って勉強したんだけどなあ。  家は高校受験と反抗期真っ最中の兄のピリピリのせいで二階で勉強できないし、一階は妹二人が五月蝿かったんだもん。  その隙間を掻い潜り勉強したのに。 「信海くん、ありがとう」  最終通告からぎりぎり延命してもらえた私は、急いで信海くんへお礼を告げた。  青中信海くん。  ちょっと垂れ目なんだけど、笑うと可愛いと大人気のうちの中学校の生徒会長。普段は静かなんだけど、相談したり愚痴るといつも的確な判断と解決策を教えてくれるから頼れる幼馴染みだ。  お父さん同士がはとこだから、私と信海くんは遠い親戚になるらしい。遠縁扱いかな。  昔、そんな連絡をもらって信海くんと一ヶ月ぐらい住んでいたことがあったけど、事情は分からない。  分からないけど、いつも優しくてにこにこ笑う信海くんが私は、のんびりしてて私のお人形遊びも一緒にしてくれなかった実の兄よりも大好きだった。  「夏空は、可愛いよね」 「えっ」  素直にお礼を言っただけだったのに、信海くんは私の頭を撫でて少しだけ悲しそうだった。 「それは頭の中も、可愛いってこと?」  不思議だったから聞いたのに、信海くんは何だかまた少し悲しそうに笑った。  あの日、私を庇ってくれた信海くんは変だった。 「あのさ、助けたんだから一つだけ、僕のお願い聞いてくれないかな」  いつも私が甘えてばかりだった。だから私に何か頼むのは初めてだったので、私は大きく頷いた。
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