しらさぎ譚

1/87
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
     一  ──おれは脱走した。  父親の借金を返すためだけに、鉱山で泥だらけになり八年間働いていたが、ついに脱走したのだ。  鉱山の仕事はきつかった。きつかったがおれは黙々と働いていた。来る日も来る日も(あらがね)の詰まった(たわら)を運ぶ作業に明け暮れた。(あな)の奥で、(つち)(のみ)(たた)いて鉱を採る堀子(ほりこ)の役目もやった。毎日働いて飯を食って寝るだけの生活だ。それを八年も続けた。だが、そんな暮らしにもいよいよ嫌気が差した。もう沢山だ。もう何もかもどうでもいい。おれはおさらばする。おれは脱走する──。  歌七(うたしち)は、こうして、鉱山から脱走した。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!