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一
──おれは脱走した。
父親の借金を返すためだけに、鉱山で泥だらけになり八年間働いていたが、ついに脱走したのだ。
鉱山の仕事はきつかった。きつかったがおれは黙々と働いていた。来る日も来る日も鉱 の詰まった俵を運ぶ作業に明け暮れた。坑の奥で、槌で鑿を敲いて鉱を採る堀子の役目もやった。毎日働いて飯を食って寝るだけの生活だ。それを八年も続けた。だが、そんな暮らしにもいよいよ嫌気が差した。もう沢山だ。もう何もかもどうでもいい。おれはおさらばする。おれは脱走する──。
歌七は、こうして、鉱山から脱走した。
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