夢オチ

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夢オチ

 ある夜、そろそろ寝ようかと妻と話をしていると、唐突に彼女が言った。 「あなた、どうしたの、その目」  ものもらいでもできたのかと思いつつ鏡を見て愕然となった。白目に黒い斑点ができていたのだ。  私がその奇妙な病を知ったのは1年ほど前だろうか。その病に罹ると眠るたびに悪夢を見るようになるという。その内容は人それぞれで、罹患した人が最も恐れていることを夢に見るそうだ。その恐怖に耐えられなくなると死に至り、逆にそれを乗り越えることができれば病は治癒に向かうらしい。このことから一般的にはこの病は悪夢病と呼ばれているが、学術的には眼球黒斑病という名称があるそうで、白目部分に黒い斑点ができることがその由来なのだとか。  悪夢病の恐ろしいところは7割を超える致死率だ。それほどにこの病が見せる悪夢は恐ろしいということだ。おまけになぜこの病に罹るのかが不明で、いつどこで誰が発症するか全く分からないときている。せめてもの救いは、それが100万人に1人の割合でしか起きていないということと、人から人へ感染するものではないということだ。  妻はこの病のことを知らなかった。説明してやるとすぐさま病院に電話しようとするのだが、慌ててそれを止めた。 「ちょっと待て。病院なんかに連絡したら入院させられるだろ」 「当たり前でしょ。大変な病気なんだから」 「君はわかってないな」 「なにが」 「入院するということは、ベッドに寝かされるじゃないか」  怪訝な表情を浮かべた妻が、 「それがどうしたのよ」 「ベッドで横になったら眠っちゃうだろ。そうしたら悪夢を見るんだぞ」 「じゃあどうするのよ?このまま放っておくわけにもいかないでしょ」 「とりあえず、一晩考えさせてくれ」 「私はべつにいいけど。一刻を争う病気じゃないみたいだし」 「そもそも眠る気も起きないんだ」 「そうね。眠れば悪夢を見るんだもんね」  妻は同情するような眼差しを僕に向けてから、 「じゃあ私もお付き合いするわ。一人じゃ不安でしょ」 「いや、大丈夫だ。今は一人になりたい気分なんだ。だから君はやすむといい」 「そう?じゃあ、何かあったら絶対起こしてね」  わかったと答えると、妻はおやすみと言い残して寝室に姿を消した。
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