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「ただいま」
冬のある夜、リビングでノートパソコンを開いていた私は、いつもより早く帰宅した同棲人を出迎えに玄関に向かった。
「お帰り。早かったね」
「うん。お店を早仕舞いしたんだ。雪も積もってきたし、俺たちも帰れなくなりそうだったから」
今時の若者と同じ短髪を、黒に近い茶色である仙斎茶色で染めた端正な顔立ちの同棲人は、頭や肩の上に積もった雪を玄関で払い落としていた。
「こんなに雪が降っていたの?」
「もう膝下まで積もってたよ」
私が帰宅した時は、まだ細雪が薄っすら積もっていただけなのに、いつの間にこんなに降り出したんだろう。
私も一緒になって、同棲人の肩に積もっている雪を払い落とす。
足元に落ちてきた雪は、すぐに溶けて水となった。
「明日は早めに出た方がいいかな……。 電車は動きそう?」
「どうだろう……。駅には特に運休の案内はなかったけれど……」
「朝起きて、電車が運休していたら、お店まで乗せようか? と言っても、雪道の運転は自信ないけど……」
「コトに任せるよ。でも、無理そうならいいから。その時は歩いてお店に行くから」
黒のマフラーを外した同棲人は、マフラーについた雪を払い、次いでコートに残っていた雪を払い落とす。
けれども、仙斎茶色の頭の上にはまだ雪が残っていた。
このままだと風邪を引いちゃう。
背伸びをして頭に手を伸ばすも、身長が頭一つ以上違う私では手が届かなかった。
「帰って来る時に、コトの車に雪が積もっていたから軽く下ろしておい……コト?」
背伸びして手を伸ばしていた私に気づいたのだろう。
焦茶色の目を丸くして、見下ろしてくる同棲人に私は固まってしまう。
「あ、こ、これは! ジェダの頭の上にまだ雪が残っているから払おうと思って……その……」
しどろもどろになって赤面していると、同棲人は綺麗な顔に笑みを浮かべたのだった。
「ありがとう。嬉しいよ」
「で、でも、手が届かなくて、だからまだ払えていなくて……」
そうしている間も、同棲人ーージェダの頭の上に残っていた雪はどんどん溶けて、仙斎茶の髪に吸い込まれていく。
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