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「もう寝た?」  一瞬でこっちへ引き戻された。 「ねえ、時田君、もう寝た?」  絶妙に悪いタイミングで話しかけてきたのは、隣のベッドにいる寺島君。同じクラスだけど今日初めて喋った。入学当初から不思議な人だとは思っていた。喋ったら少しはどんな人か分るかと思っていたけど、真逆だった。 余計に分らなくなった。 話が通じない訳じゃないし、自由参加の合宿に来るくらいだから、勉強も出来ないわけじゃない。でも、何というか、寺島君の周りだけ時間や空気の流れが他と違うように感じる。 興味はある。 でも今は寺島君の事よりも、とにかくねむい。寝たいんだ。 「ごめん、まだ寝てないけど、もう寝る、おやすみ」そう言って、目を閉じる。 「おやすみー」  はあ、これで眠れる。さあ睡魔さん……僕を、あっちへ、連れていって……くだ……さ。 「もう寝た?」 え、寝ようとしてるって言ったばっかりじゃん。 「……だから、まだ寝てないけど、もう寝るよ。寺島君も寝なよ」声を抑えて言う。 「そうだね、俺も眠い」  だったら早く寝てくれ。それかせめて人の睡眠の邪魔をしないでくれ。少し暑いが布団を肩までしっかりかけ、寺島君に背を向ける。もうちょっとクーラー強くしておけば良かった。だけどしょうがない。  しっかりと目を瞑る。  すぐに睡魔さんが来た。ああ、睡魔さん、近くで待っていて下さったんですね……こんなに、すぐ来てくれるなんて……。では、一緒にゆっくり、ゆっくり、ゆっく……り……。 「もう寝た?」  反射的にバッチと目が開く。  体を素早く百八十度回転させる。 「あのね、僕、今ほぼほぼ寝てたんだよ、せっかく睡魔さんが来てくれてたのに!」 流石に耐えきれなかった。 「睡魔さん?」 「何でもいいから。眠いんでしょ?早く寝た方がいいんじゃない?」願い、混乱、いらだち、眠い、全ての想いを込めて言う。  暗くて顔は見えないが、「そうだね~」なんて言う寺島からは、僕の想いを全て手前でバリアーするような、ニコニコした雰囲気が出ているのがハッキリと見える。  何がそんなに楽しいんだ。 「とりあえず本当に僕は寝るから、君は寝ても寝なくてもどっちでもいいけど、静かにしてくれおやすみなさい」 寝る直前と思えないほど滑舌良く捲し立て、再び百八十度回転する。さすがにここまで言ったら、寺島も話しかけてこないだろう。 誰だ、部屋割り面倒くさいから名簿順でいいなんてのは……僕か。
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