トラウマメモリー

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数週間後、精神鑑定の結果とストラップを掴んで助けようとしたということで真記は完全無罪となった。 裕香が自殺をしようとし、晃良がそれを止めようとしたが誤って一緒に落ちたと晃良が証言したからだ。 晃良は真記に裏切られたはずなのに、真記に背中を押されたとは決して言わなかった。 ―――私の名前は晃良の口から証言が出ていない。 ―――晃良は最後まで私を守ってくれたのかな・・・? 裕香は助からず亡くなったらしい。 大量に付けていたアクセサリが身体に絡んで泳ぐことができず流されたと聞いた。 流石の晃良でも助けるまでは無理だった。 ―――元々自殺しようとしていたし、この結末は本望だっただろうね。 そんな晃良は病院に運ばれ一命を取り留めた。 真記も見過ごすわけにもいかず、しばらく経ってから警察に通報したため救出された。 「・・・来てくれたのか」 「来てほしいって言ったのはそっちじゃない」 真記は今日退院した晃良を迎えにきていた。  「どうしても真記と行きたいところがあって」 晃良は自身の行いを悔いていて、償いのためにも兄の墓へ一緒に来てほしいと願った。 それを素直に聞き入れる必要性は全くなかった。 だが真記はあの日の出来事を考え、願いを聞き入れてもいいと思ったのだ。 墓へと向かいながら気になっていたことを晃良に尋ねかける。 「聞きたいことがあるんだけどさ」 「何?」 「あの時言ってきた“忠告”って、一体何だったの?」 「あぁ・・・」 「私が酷い目に遭うって、どうして晃良が知っていたわけ?」 「裕香が俺のことを好きだったことは、裕香との話で分かっただろ?」 「・・・うん」 「俺がアイツに振り向かない理由は真記がいるからだ。 それを知った裕香は、真記を酷い目に遭わせるって言うからな・・・」 「・・・そうだったの」 「・・・」  二人の間には気まずい空気が流れていた。 二人の関係性は複雑だ。 互いに思うところがあり、互いにそれを口に出せないでいる。 ―――正直なところ、晃良と元の関係に戻れるとは思っていない。 ―――そもそもなりたいとも思わない。 ―――・・・にもかかわらず私は、今こうして晃良と一緒にここにいる。 ―――・・・私は一体どうしたいんだろう。 真記は不可解な精神状態に答えを出せないでいた。 もしかしたら既におかしくなってしまっているのかもしれない。 ただ前のように目の前の晃良を殺してやりたい、とは思っていなかった。 「・・・もう一つ、聞きたいことがあるんだけど」 「何?」 「晃良は私を恨まないの? 私に突き落とされたことを知っているんでしょ?」 突き落とした瞬間あの時目が合った。 それは晃良も分かっているはずだ。 「・・・恨まないよ」 「え?」 「そもそも俺に真記を恨む権利はないから。 ああされて当然だったと思ってる」 「・・・ふぅん」 その言葉を聞き一瞬唖然とした。 ―――・・・恨まないんだ。 ―――命を落としそうになったというのに。 ―――晃良がそう言うなら、私は・・・。 晃良のその言葉に真記の心は揺れ動いた気がした。 ―――晃良が私を恨まないのなら、もう許してあげてもいいのかもしれない。 ほんの少しだけそう思えた。 「・・・ここだよ」  墓に着いたようだ。 真記は以前の時のように髪をショートに切り夏にぴったりな涼し気で清々しい服装でいた。 「兄貴。 本当にごめん」 「・・・」 晃良にならい真記も手を合わせた。 一度も会ったことはなく、話で聞いただけの彼だが、何故かそうしたいと思った。 病気で伏せっていた彼が全ての原因に繋がるのかもしれないが、彼は何も知らなかっただろうし死者に罪はないということで恨みはない。 「この子が俺が大学の時に付き合っていた彼女。 真記って言うんだ。 本当はすぐにでも兄貴に紹介したかった、自慢の彼女さ」 墓参りを終えた後、晃良に言った。 「晃良への恨みは完全に晴れたわけじゃない」 「・・・分かってる」 「だからこの先も、ずっと生きて罪を償ってほしい」 「・・・え?」 その言葉に晃良は驚いていた。 互いの目が合う。 「嫌なの?」 尋ねると晃良はすぐに真剣な表情になった。 「いや。 もちろんだよ」 「その気持ちをずっと忘れないでいてくれるなら、私はいつか貴方を心の底から許すことができるかもしれない」 「あぁ、ずっと」 「もう一度だけ信じさせてね。 元カレさん」                               -END-
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