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「一年生の頃から一緒にいた親友がいてね、そいつ、家がちょっと豊かじゃなかったのよ。親の収入に見合わないのに無理して私立に通わせてるって言ったらそれまでの話なんだけど、近くともアタマは良いやつだったよ。学校も特待生として学費をかなり減額してくれたぐらいだ」
「なんか、想像つかない話」
「四年生に上がった頃にな、学校の自転車置き場から自転車が盗まれたんだよ。ブランド物のロードレーサーってどえれー高級いやつ」
その瞬間、由理香は自分の自転車が盗まれた時のことを思い出した。言い様のない既視感に襲われる中、正多は話を続けた。
「そのロードレーサーの持ち主は私立小学校にはよくいるようなボンボンだ。見た目がカッコいいってだけで買ってもらったそうだ。盗まれた瞬間そいつはガキのように癇癪を起こしやがった。まあ、当然のこと」
「自転車が盗まれた気持ちはあたしもわかる…… 数万円のママチャリだけど……」
「俺の親友が犯人ってことにされたんだ。家が豊かじゃないって理由だけでの決めつけだ」
「酷い」
「で、イジメに発展。そいつは最後まで自分の潔白を訴え続けた。俺もそいつを信じていた。でも、信じるだけでイジメに巻き込まれるのが怖くて俺は何も出来なかった。そいつはイジメに耐えられなくなって登校拒否」
「酷すぎる」
「自転車は見つかったよ。そいつの家の近くの駅だ。そんな曖昧なことで『やっぱり犯人だった』って決めつける奴まで出てきた。先生までもがそいつに『謝りなさい』って言うぐらいだ、頑として拒否したけどね」
「なにこれ、意味分かんない」
「そうだよな、俺だって意味分かんねえよ。それから数日後だ、犯人が発覚したんだよ。隣のクラスの市会議員の息子さんだ。学校から駅までちょい乗りで借りたそうだ、4桁キーで鍵なんかないもんだって言ってたそうだ」
「ゴメン、話の展開が予想できてきた」
「その予想、多分合ってると思うぜ? 犯人は発覚したけど、お咎めは一切なし、ボンボンと市会議員との親の間でちょっとした話し合いはあったらしい。被害届はすぐに取り下げ、学校側も市会議員に気を使って処分は一切なし。他の奴だったら多分だけど放校処分だったろうな。あれから後に起こった自転車窃盗起こした六年生は即座に放校処分くらってたしな」
「納得行かない」
「又聞きの話だけで聞いてた田島でも納得行かないよな…… 俺の親友は登校拒否を続けたまま転校。クラスの皆も『なかったこと』にして平然としているんだ。俺はそんな奴らのいる学校に嫌気が差して、転校してきたんだ。パパもママも反対はしたけど、中学受験からもっといい私立に行くって説得して納得してもらったんだ」
由理香は僅かばかりの疑いの目で正多を見つめていた。その目に気がついた正多は疑いを察するのであった。
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