1 プロローグ 盗まれた自転車

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1 プロローグ 盗まれた自転車

「NO WAY!(ありえない)」 ここは澤北小学校の自転車置き場。澤北小学校では近年の少子化の影響で統廃合が進み、学区が広くなっている。その広い学区からの通学を可能にするために自転車通学も解禁され、澤北小学校の校庭の片隅に自転車置き場が出来る流れとなった。  その自転車置き場で頭を抱え「NO WAY!」と、英語の授業で覚えたばかりの言葉で叫ぶ少女がいた。彼女は「田島由理香(たじま ゆりか)」至って普通の小学六年生女子である。自転車置き場でこんな叫びを上げる理由なぞ他にはない。あるはずの自転車がないからである。  由理香は放課後のチアリーディング部の練習を終えて、帰宅の途に就こうとしたところで自分の自転車が無いと気付き、「ありえない」と叫んでしまったのだ。それから暫く呆然とした後、辺りを探し回るが自転車は見当たらない。その後ろをチアリーディング部の友人達が通りかかる。 「あ、ゆりゆりじゃん? どうしたの?」 声をかけるのは同じクラスの「大室あずさ(おおむろ あずさ)」と「森本愛菜(もりもと あいな)」この二人は由理香と同じチアリーディング部に所属する仲間で、親友である。 「あ、おっつー。聞いてよ~ 自転車ないのよ。今朝までちゃんとここ置いていたのに」 「ウッソー! 超ありえないんですけど!」 「場所とか間違ってないの?」 「この辺り、全部探したよ」 二人も一緒に自転車置き場にて捜索を手伝うが、やはり見つからない。夕方故に日も陰りだしたことから捜索を打ち切りにすることにした。 「ゴメン、もういいよ。後は一人で探す」 由理香は肩を落とし悲しそうな顔をしながら俯いた。あずさと愛菜は慰めるように肩をとんとん叩く。 「ホント、酷いことする奴がいたもんだね」 「許せないよ」 「うん…… ほら、二人も帰り遅れると怒られるよ?」 二人は由理香の元から去っていった。由理香は自転車を盗まれた悔しさから泣き出そうになっていたが、親友の前で泣き顔は見せられないとして気丈に振る舞い笑顔で手を振り見送るのであった。
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