僕の宿題

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 またか。  届いたメールに、思わずため息をはいてしまった。  メールの相手は石田君だ。夏休みに入ったあとから、石田君からプログラミングについて相談のメールが届くようになった。  メールが届くことについては問題はない。宿題でわからないことなど、些細なことでも相談してほしいと生徒達に伝えたからだ。ただ、問題はその頻度だ。石田君は夏休みに入ってから毎日のように相談してくるのだ。しかも、質問内容はプログラミングのことばかり。出した宿題はプログラミングだけではないのに、プログラミングの質問しか届かないのだ。質問内容と進行具合からみて、おそらく石田君はプログラミングの宿題しかしていない。なにかを急ぐようにプログラミングの宿題ばかりをしている。 「雨のにおいも再現したい、か…………」  質問の内容に、先生はあごに手をあてる。  先日は夕立前の気温の変化を再現したいというので、空調か、もしくは簡易エアコンとの連動をアドバイスしたのだが、匂いはいったいどうしたものか。  考えながらも、つい、残念だという思いがよぎる。  石田君は真面目で、成績もいい。だから今回の『夕立の再現』も実に見事なもので、体験したこともない夕立を細かく調べ、プログラミングを完成させようとしている。  石田君なら、違う題材でもきっと完成度の高いプログラミングができるはずだ。なのに、なぜ『夕立の再現』なのか。それで、誰が笑顔になるというのか。  先生はそんな思いを振り払うようにもう一度ため息を吐くと、匂いを再現する手段を探すためパソコンに向き直る。 ーーーーそして、石田君からプログラミングが完成したことと、できれば先生にも始動に立ち会ってほしいと連絡があったのは、それから六日後、八月に入って少したった頃だった。
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