2人ならきっと大丈夫だから

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仕事終わり、私は会社近くの書店で予約していたトワが表紙の雑誌を受け取り、そのまま洋菓子店に立ち寄った。せっかく付き合って1ヶ月記念の日に会えるんだ。ささやかでいいからお祝いがしたかった。散々迷った挙句、私は無難なショートケーキを2つ購入し、歩のマンションの最寄り駅に向かった。 いつものように東口に出てから電話を掛ける。歩はもう家にいて、優しい声で『待ってるよ。おいで』と言ってくれた。歩に会うのはちょうど半月ぶりだ。連絡は毎日取り合っていたし、雑誌やテレビでしょっちゅう歩の顔を見る機会があったので寂しくてどうしようもないという状況には陥らなかった。 「あれ?何か買ってきたの?」 出迎えた歩はすぐに私が手に持つ洋菓子店の箱に気付いてくれた。私が「ケーキ買ってきた」と答えると、彼はなぜか驚いていた。 「偶然だな。俺も今日ケーキ買ったんだよ」 「え、なんで?」 「なんでって。今日で俺ら1ヶ月じゃん」 今日は荷物が多く、片手でショートブーツを脱ぐのに苦労していた私は顔をあげる。歩ははにかみながら私が持つケーキの箱を「持つよ」と受け取ってくれた。 「そういうの、数えない人だと思ってた」 「ちゃんと数えるよ。だって透和(とわ)との記念日だし」 自信満々にそう語る歩の前で私は今日の昼休みまで記念日を忘れていたとは言えなかった。今日はその場凌ぎでケーキを買ったけど、2ヶ月目はちゃんと何かを用意しよう、そう決心した。 リビングのドアを開けると、ダイニングテーブルにはすでに美味しそうな料理の皿が並んでいた。私が「作ったの?」と尋ねると、歩は「デリバリーだよ」と笑った。 「さすがに俺もフレンチは作れないから。でもお皿に盛るだけでそれっぽくなるだろ?」 「うん。なんかいいレストランに来た気分」 私は荷物をソファーに置いてダイニングテーブルに戻る。そして歩の向かい側の椅子を引き、そこに座った。美味しそうな料理を前にすると自然と頬が緩む。そしてさらに顔をあげると大好きな人がいる。幸せすぎて思わず笑うと、お酒の準備をする歩に「なに笑ってんだよ」と顔を顰められた。 「幸せだなぁって思って。私と歩が付き合ってて、今日が1ヶ月記念日で、そんな特別な日にこうやって会えるってすごいことだなぁって、感動してた」 立ち上がった歩が私の手元にグラスを置き、スパークリングワインを注ぐ。細長いグラスで泡立つ黄金色と歩の手元を見つめていると、歩に「見すぎ」と笑われた。 「じゃあ今日は透和が忘れられない日にしてあげないと」 「もう十分忘れられない日だけど……」 「透和にはもっと贅沢になってもらいたいんだよね。こんなのじゃ足りない、もっと欲しいって言わせたい」 席に戻った歩が「食べよっか」と微笑む。もっと贅沢になって欲しいなんてドラマみたいなセリフを聞かされた直後の私は恥ずかしくて顔が上げられなかった。
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