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最後に打ち上げる桜花乱舞が上がる前に、数百発もの花火が次から次へと、休む間もなく打ち上がる。
全ての観客からどよめきにも似た声が洩れていく。
そして、連鎖で上がり続けた花火が止むと、辺りは静けさを取り戻し、闇夜が空を支配する。
観る側と打ち上げる側に緊張が走り、心臓のドックン、ドックンという音が今にも聞こえてきそうだった。
「おばちゃん、いよいよだよ」
「ドキドキすったい」
病室で花火を見守る静風と春子にも緊張が走っていた。
ヒューッ!
静寂の夜空に最後の音が走り抜けた。
ドォーン!
最後の音と共に、夜空に枝垂れ桜の桜花乱舞が満開に咲いた桜弁を描いた。
歓声と拍手が辺りを一斉に支配していく。
「見事じゃ」
春子が瞳に映した桜花乱舞の裾から涙が溢れ返っていた。
静風は自分が流している涙のことすら忘れて、春子の涙をハンカチでそっと拭ってやった。
「お母さん!」
「なんねいきなり、びっくりすったい」
「不束者ですが、宜しくお願いします」
春子は静風を優しく抱き寄せた。
打ち上げ花火の上げ場では桜花乱舞の成功に、優介が胴上げされていた。
花火職人の瞳から涙が止まる事はなかった。
夜空には優介の背中の桜花乱舞がいつまでも舞っていた。
想いをのせて……。
【完】
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