花火にのせて

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. 「先生、無理は承知で頭ば下げとるったい!」  総合病院の診察室を訪ねた優介は黒い丸椅子から立ち上がると、外科医である立花の前に立った。 「容態と相談してからだ」  立花は銀縁の眼鏡越しに優介を見上げた。 「どうしても見せてやりたかけん!」 「……、ふぅーっ、わかったよ。院長とよく相談しとく」 「お願いします!」  優介が深々と立花の顔の前で頭を下げると、立花は優介の肩を二、三度軽く叩いて眼鏡の位置を直した。  診察室を出た優介は二階の病室へと向かった。 「どげんね?」  優介は病室に入るなり、ベッドで横になっている母、春子に声を掛けた。 「まぁどうにかこうにか生きとるばい」  春子は掛け布団を剥ぎながら起き上がった。 「寝とらんね、直に帰るけん」  優介は春子の肩を抱きながら枕に頭を預けさせて、掛け布団をかけ直すと、白いカーテンをゆっくりと開いて窓を開けた。 「今年も満開やね」  二階の病室の窓越しに見える桜が病院の駐車場まで一直線に並んで咲いていた。  淡い桃色の桜の花びらは、時折吹く風に柔らかく地表を舞っていた。 「今年は少し咲くのが遅かったけん、散るんが早かったい」   春子は優介の背中に身体を横にすると、長く伸びた髪を耳元にかけ直した。 .
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