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「真奈、おっはよ!」
「……なんでいるの」
翌朝、私は階段を下りている途中でフリーズした。
玄関に照君が仁王立ちしている。にこにこと機嫌がよさそうだ。
思わず頭に手をやり、今日は着替えて髪もセットした後だった、とほっとする。
「テスト前だから応援団も朝練ないの。早く学校行こうぜ」
「ま、待ってよ、まだご飯食べてない……。あれ、お母さんは?」
「大事な会議の前に準備するからってさっき出たよ。上がっていいよって言われたけど」
リビングは別に散らかってはいない。
だけど私が食べてるところを見られるのは、少し気恥ずかしさもあって「そこで待ってて」とお願いする。
意外にもすんなり引き下がった照君は、玄関ホールに腰かけた。
「ゆっくりでいいからな。急いで喉につまらせんなよ」
「お母さんみたい」
「真奈ちゃん、味わって食べるのよぉ」
「似てない~」
笑いながらその横を通る。リビングでご飯を食べている間、「静かだな」と思って照君の様子を見ると、彼はじっと中庭を見ていた。
「さっき、中庭見てたね」
歩き出しただけで暑さを感じる。日に日に温度が上がっていく。ご機嫌な照君を見上げて、夏が似合うなぁ、なんて思う。
「懐かしくてさ。真奈の家から飛ぶときはいつもあそこからだった」
「そうだったね」
「あそこで『あっちむいてホイ』の箒に乗ったバージョンやったの覚えてるか?」
「あー、あったね。楽しかった」
「真奈、飛ぶのは俺より速いのにあれでバランス崩してよく芝生に落ちてたよな」
「う……バランスとか、とっさの判断とかまだ苦手なんだよね」
ははは、と笑う照君。その声がぷつりと途切れ、彼は立ち止まった。
頭に手を当てている。
「どうかした?」
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