1話:幼馴染みを拾った夜

1/2
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

1話:幼馴染みを拾った夜

 俺には、高校生の時に一つ夢があった。  幼馴染みや気の合う仲間と組んだバンドは、思った以上に楽しかった。最初はコピー、そのうちに幼馴染みの涼介が詩を書いてきて、皆で「お前こういうの書くのかよ!」なんてどやしたりして。  俺がそれにメロディーを付けて、皆で集まって練習して。配信してみたり、学園祭で歌ったり。そのうちにライブハウスにも出たりした。  楽しい青春の1ページ。キラキラした思い出。それだけならよかった。  高校3年生になって将来を見据えると、皆バンドにかまけていられなくなった。俺もそのうちの一人だったけれど、涼介だけは本気でデビューを目指していた。数人、そっちの道を行きたい奴もいた。 『なぁ、祥吾! 俺の夢に預けてくれ!』  そう何度も訴えるあいつの言葉に、俺はとうとう応えてやる事ができなかった。  自分の未来を見据えた時に、俺は怖くなったんだ。自分よりも才能のある奴なんてわんさかいる。時間をかけて、頑張って、実らない事なんて沢山ある。そうなったとき、リカバリーは利くのか?  「頑張り次第だろ」と言う奴もいる。でもそれは他人事だから言える事だ。俺は俺の将来をみて、そこに賭けてやれなかった。  それっきり、涼介とは連絡を取っていない。取れないだろ、見捨てたようなものなんだから。  大学行って、普通にそれなりに過ごして3年。就職活動はいまいちはかどっていない。俺のやる気の問題だろう。なんだか全部に納得できていないままここまで来た気がする。  結局あの楽しくて輝いていた青春の日々が忘れられず、見放した幼馴染みの事もひっかかり、全部を中途半端にした結果な気がするのだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!