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レースのカーテンを突き抜けて、
光の中にほどけていく。
わたしは知ってる。
これが何で、誰の音か。
「女神様だ……」
アスファルトの急な坂道を下りながら上を見る。
黄色い壁と、青い屋根ののっぽなお屋敷。
外へ向けて左右に開いた、二階の窓の後姿。
長く黒い髪がきらきらして、
半袖のブラウスは天使の羽根みたいに真っ白だ。
肩には飴色のヴァイオリン。
腕が動く度、
歌うような音色が夕焼けに溶けていく。
四角い窓を見上げながら、わたしは藍色の鉄門と、
窓の真下のガレージを過ぎる。
顔は少しずつ右へ捻れて、後ろを向いて、
そのうちに首が痛くなる。
けれどそこまで頑張れば、
女神様は完璧な横顔を見せてくれた。
夕焼けやお屋敷の窓と一体になる、
お淑やかで神秘的な横顔を。
絶対に眼が合わない高さの顔に、
心臓がどきどきと鳴る。
ランドセルと似た重さのエコバッグを握りしめて、
顔の向きをぱっと戻す。
坂を下る足が、音楽室のメトロノームみたいにせっかちな歩調を作り出す。
駆け出しそうになるわたしの背中を、
ヴァイオリンの音色が柔らかに押す。
お屋敷に住む女神様。
にひひ、と笑ってしまう。
何て素敵なんだろう、と。
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