第15章

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 緊張感が漂う中、グイニスは従兄のタルナスを迎え出た。本当は走り寄りたいところだったが、タルナス付きの侍女や侍従達がいる前でそういうことをすると、後で叔父や叔母に報告が入り、従兄がグイニスを(かば)うのに苦労するという事が分かったので、できるだけ隙が無く、しかし、適度に従兄より抜きん出た所が目立たないように、調整しなくてはならなかった。  この間、襲撃(しゅうげき)された上、毒も盛られたので、それをあえて隠さないことにした。かなり回復したが、それでも体調は万全ではない。おそらく、タルナスはすぐに気がつくだろう。そして、叔父や叔母にもグイニスが襲われた事実は伝わるはずだ。  グイニスが走り出したい衝動を抑えて、従兄を出迎えると、馬車から降りてきた従兄の方が走り寄ってきた。 「グイニス、元気だったか。」  タルナスが走ってくるので、グイニスも走り寄ることにした。年上のタルナスに走らせ、自分が走らない訳にもいかないし、我慢もしたくなかった。しばらく会っていない従兄だ。  助け出して貰ってから、三年ほど会っていない。セルゲス公の位を貰った時も、文書で命令が下されただけで、会っていない。  走り出したものの思ったより体力が落ちていて、タルナスの前に来た時には、かなり大きく息をすることになった。 「グイニス、元気にしていたか…?」  抱きしめようとしていたタルナスだが、グイニスの様子を見て、出した腕を背中に回してさすった。 「大丈夫か?」  出会ってすぐに従兄に心配をかけている。 「大丈夫です、従兄上。」 「ちっとも、大丈夫じゃなさそうだぞ。顔色が真っ青だ。本当は体調が悪くて、走ったらいけなかったんじゃないのか?向こうの方で医者が渋い顔をしている。」  さすがタルナスは少しの事で全てお見通しだ。グイニスが抜けた所があるのに対し、従兄のタルナスは何事につけ粗相がなかった。 「そ、そんなことはありません。」 「嘘をつくな。目が泳いでる。下手すぎてばればれだ。それに、たったこれだけの距離を走っただけで、汗をかいてる。早く部屋に戻ろう。仰々しい食事会なんかなしだ。」 「ですが、従兄上、料理など用意されていますし、無駄になってしまいます。」 「まあ、確かにそうだが。お前の体調の方が心配だ。大体、お前は療養中という事になっている。本当に療養した方が良さそうなのに、食事会をするなど馬鹿げている。」  タルナスは少し考え、結論を出した。 「私とお前は最初に少しだけ出席し、すぐに部屋に戻ろう。お前は実際に体調が悪いのだし、私も疲れたということを理由に引き上げる。後はベブフフに任せる。勝手にやるだろうさ。」 「従兄上は食事を召し上がらないので?」 「いいや、後で部屋に運ばせる。お前やフォーリの分も一緒にだ。私の皿から取り分ければ、お前もフォーリも安全だろう。さすがに母上も私の料理に毒は盛るまい。」  タルナスの結論にグイニスは、反論しなかった。そもそも、タルナスの判断にそつはないし、王太子の判断に否も言えない。 「従兄上がいいのであれば、私は構いません。」  王太子タルナスと一緒に領主のベブフフも来ていた。ベブフフはグイニスの姿を見ると、一瞬目を(みは)り、それから苦い顔をした。さすがに、先日の一件で気まずいのだろう。  タルナスとグイニスは決めた通りにすすめて、早々に部屋に引き上げた。普段は使われない大広間や客間の方に大勢がいるから、いつものように静かな部屋が、余計に静かに感じられた。  タルナスがグイニスに早く横になるよう、再三うるさく言うので、仕方なく着替えて寝台の布団の中に入った。  最初はどことなく緊張していた二人も、話している内に昔のように仲良く自然に笑い合った。  グイニスはタルナスが昔と変わっていないことに心底ほっとした。もし、彼にも見捨てられたらと思うと、怖くてたまらなかったのだ。死ぬとかなんとかの以前に、誰にも必要とされず見捨てられる思いをしたくない。 「そうだ、従兄上に友達を紹介したかったなあ。」 「友達?」 「ここに来て、友達ができたんだ。でも、都合がつかないから、しばらく来られないよ。会って欲しかったんだけど。」  話しながら、グイニスはなぜか非常に眠くなった。 「そう、それは残念だな。お前の友達がどんな人か会ってみたかった。」  タルナスが言って、布団の中のグイニスの手を握ってくれた。とても、安心した。子供の頃のように、何も心配しなくていい。それはとても、気持ちよかった。
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