36話 ー掴みたいのは勝利ではないー

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 充電器はなかった。それでも電源を消していたおかげで、充電は充分に残っていた。  電源を入れて出てくるのは大量の通知情報。龍臣からの不在着信の数に、どれだけ心配を掛けたかが分かる。その中に和と夜春からも着信があり、申し訳ない気持ちになった。  それでもこうして、私は無事でいる。ギボシに捕まった時はどうなるかと思ったけど、結果が無事であることに間違いない。  イオジャクからの伝言を言う為にも、私は夜春に電話を掛けた。 「プル」  コール音が鳴ってすぐ。通話が繋がる。 『唯月!!』  緊迫した声。それでも彼の声が聞けたことに、嬉しさが込み上げてくる。 「夜春さん……」 『唯月だよな? 唯月で間違いないよな!? 無事か!?』 「うん……。私だよ。無事で、怪我とかも何もないよ」 『……よかった』  心の底から漏れた声。声だけで安堵したことが分かる。 『それで、今何処にいるの?』 「えっとね。話すと長くなるんだけど、とりあえず今、CRH本部内にいるの」 『……やっぱりそうなんだ』  どこか納得するような物言い。検討は付いていたのかな? と思う。 『狼に捕まったってこと?』 「ううん。私を捕まえたのはギボシなんだけど……。ギボシが本部に連れて行ったの」  これだけを聞けばどう言うこと? ってなると思う。現に電話の向こう側はざわついていた。 『とにかく。龍臣からも電話があって、唯月がCRH本部の敷地内にいるって分かったんだ。だから乗り込もうとしてたとこ』  それを聞いてあっ! となる。移動する前でよかったと思った。 「待って! イオジャク局長から皆に伝えて欲しいって頼まれていることがあるの」 『……え? 局長から?』 「うん。私の引き渡し場所。無事に引き渡すことを約束するから、場所を指定させて欲しいって」  そう言って言われた場所を伝える。向こうで皆が話し合うことが聞こえてきた。 『特に何もない場所ですね』  スピーカーにしているのだろう。マップで調べたらしきシオンの声がした。 『どうする?』  鴇矢が問う。少しだけ間が空いて、和の声がした。 『優先すべきは唯月の無事だ。狼と再戦するに、場所は何処だって関係ない』  あぁ、分かったと言ったそれぞれの肯定の反応が聞こえてくる。私は残りの時間の指定を伝えた。
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