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伝えてすぐ、夜春達は出発することになった。
『夜春ー。そろそろ行こう』
『あ、はい。分かりました』
和からの呼び掛けが遠くに聞こえる。答えてから夜春は咳払いをした。
『そのことも後でゆっくり話を聞くよ。今は安静に、無茶はしないようにね』
「うん」
『じゃあ』
「また後で」
名残惜しそうな声を残して通話が終わる。しんと静かになったのにも関わらず、私はふふと笑みを零した。
夜春さん、焦ってたなぁ。
急に、思いもよらないことを言われて、焦るのも当然。それでも焦っていた夜春のことを想像してみれば、つい笑ってしまった。
上体を起こしていたのを、スマホを枕元に置いて横になる。妊娠していると分かった時は呆然としてしまったけど、今は色んな想像が膨らむ。
夜春さんならいいお父さんになりそう。
産まれてくる子は男の子だから、夜春さんに似て背が高くなるといいな。
夜春と子供が戦いごっこをしている。それを見守り微笑む自分を想像して、幸せだろうなと思う。
そしてそんな未来が訪れるように。現実にする為に、今が最大の分岐なのだと改めて思った。
――私が出来ることは全力で。
掴み取るんだ。
未来の為に。
この子が何の憂いもなく、毎日を笑顔で過ごせる世界を。
まだ小さい命の胎動を感じることは出来ない。それでもお腹の上に手を置いてそれを感じながら、朝に備えて少しでも眠ろうと思った。
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