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 春の朝、ターミナルの駅舎が膨らんだようだった。改札からロータリーへ、スーツ姿の男女が一斉に吐き出される。黒っぽい人波が、大通りからビルの合間、小道へと分かれ、血液が毛細血管に流れこむように、街に広がっていく。  きれいなタイルで舗装された歩道から、白亜のビルを、前橋いつきは見上げた。青空の中に、「アカツキ製薬」の文字が屋上に踊る。社名の前には、白地に水色で描かれた天秤秤のマーク。 ーー天びん秤。ここでいいんだよね。  いつきはショルダーバックに手を当てた。中のスマホを開けば、あの人からのメッセージを見ることができる。  あなたの言葉を支えに、ここまで辿りついた。何があっても平気。死ぬほど辛くても頑張れる。  いつきは、通行人の視線を感じた。そんなに目立つかな。お気に入りの服を、モチベーションをあげようと着てみた。さあ、今日も「会社の仕事」というものを始めましょう。  いつきは、颯爽と白いビルへ入っていった。 8a5bf289-7564-48cf-9398-aacbdaa4982e
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