12話 契約終了

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 小説の事は聞かない。  聞かなければ9月30日まではきっと先生の恋人でいられる。  こうして先生と触れ合える。  抱きしめてもらえる。  キスしてもらえる。  本物の愛じゃなくても、先生が欲しい。  今だけの関係でもいい。 「激しいな」  気持ちが昂って深くキスすると、先生から唇を離した。  私に激しくされるのが迷惑なんだ。先生は本気じゃないから。 「激しくしちゃダメですか?」  「バカ。そんな事を言うな。抱きたくなるだろ」  「先生に抱かれたい」 「今日子……」  先生と視線が絡む。見つめあっているだけなのに体が熱い。  鎌倉での事を思い出す。  夜も朝も先生に抱かれて幸せだった。  もう一度、あんな風に抱かれたい。  でも、病み上がりの先生に無理はさせられない。 「すみません。今のは忘れて下さい。お昼はうどんにしますね」  立ち上がろうとしたら抱きしめられた。甘い先生の香りに包まれてドキドキする。 「火をつけといて、行ってしまうのか?」 「だって先生、手術したばかりですよ。傷口が開いてしまいますよ」  先生がため息をついた。 「蛇の生殺しだな」 「これで我慢して下さい」  先生の唇に私から唇を重ねた。  すぐに先生が応えてくれる。    触れ合っているのに、先生の気持ちがわからない。   先生は今、何を思っているの?  仕方なく私に付き合ってくれているの?  胸が苦しい。  先生とキスしてこんなに苦しかったのは初めて。
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