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あいまい傘
大学から帰る途中、壊れた傘をひとつ見つけた。
大人用の黒のコウモリ傘。閉じたまま石塀に立てかけているそれは、骨の一本が、仲間外れのように下を向いていた。さっきの夕立で壊れたのかもしれない。場面転換に使われるような突然の雨で、すこし風も強かった。
持ち手は少し濡れていたが、僕の体もどうしようもないくらい濡れていたので関係なかった。開いてみると、ちゃんと開いた。中に水も溜まっていないので、夕立が止んでお役御免になったところをここに置いていかれたのだろう。
「もったいない」
呟くと、反応があった。
「いやいや、骨が折れたんだぜ? 捨てることにもったいなくはないだろう」
少し考え、なるほどな、と僕は思った。つい口走ってしまったが、傘の言う通りだ。
傘は続けて言った。
「しかしまあ、捨てても仕方ないとはいえ、こんなところに捨てていくのは確かになってないな。マナーが悪い」
「そう思ってるなら、そういえば良かったのに。『捨てんじゃねえ』って」
「俺は人を選ぶんだよ」
その理論でいえば、僕はしゃべりやすいほうに分類されたのだろうか。
「さて。お前は俺を拾った。拾ってしまった」
「不本意ながらね」
「どうだい、この先にゴミ置き場がある。そこまで俺を連れて行ってくれないか?」
デートしようぜ、という傘の口調は間違いなく男性のもので、男性の僕からすればそれはデートとは呼べない。
「僕は最近の若者の一人だから、マナーが悪くて置いていくかもしれない」
お前はそんなことしねえよ、と言って、傘は笑った。
「それに、俺を持ってれば良いことがあるぜ?」
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