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ベッドに押し倒されると、窓からの明かりがやっと久次の顔を映した。
今日は整髪料で固めていないのか、いつもより幼い顔をしている。
前髪が額にかかって、女子たちが騒ぐのもわかるような気がした。
「どうしよう……。すげえかっこいい……」
思わず呟くと、久次は鼻で笑った。
「よく言うよ。さんざん地味だとかナメクジとか、陰キャ先生とか呼んできたくせに……」
「それは―――照れ隠しだって……!」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
久次の手が優しく漣の頭を撫でる。
手櫛でとかすように、優しく髪の毛を弄る久次に、溜まらなく切ない気持ちになる。
「先生……」
言いながら久次のワイシャツの胸あたりを握る。
「―――ん?」
久次がとても声帯が潰れているとは思えない美声を発した。
「巻き込んでない?」
「何?」
「俺のことがなかったら、退職なんてしてなかったんじゃないの?」
言うと久次は鼻で笑った。
「―――かもな」
「―――だったら……」
「でも―――」
もう一度漣の髪の毛を撫でながら久次は微笑んだ。
「もし時間を戻せたとして。もしあの西日が差すアトリエに戻ったとして。
それでも俺は、お前を叱ったよ」
「――――」
「何度でも何度でも。お前をあの地獄から救い出そうと努力したと思う」
久次はふっと笑った。
「つまりは、俺が好きでやってるってことだ。気にすんな」
久次は優しく微笑むと、漣の唇に自分の唇を落とした。
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