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「ショーは中止になりました。係員の指示に従って入場ゲートに進んでください。繰り返します……」
会場のアナウンスと被さるように、空港に続々と集まる救急車やパトカーのサイレンが幾重にも鳴り響く。
空港の北にあるサウスウッド・ゴルフクラブのあたりから黒煙が立ち上っている。
右翼エンジンと機体の一部はゴルフ場に墜落し、炎をあげていた。
セシル・エバンズは、携帯で何度かアーロンに電話をかけてみたが、回線が輻輳で繋がらなかった。
そうした最中、セシルは、アビエイターホテルの被害が大きいと耳にして、まさかと思いながらもホテルに走った。
ホテル周辺には白地に青で『DO NOT CROSS POLICE LINE』と書かれた非常線が張られ、何十台ものパトカーと救急車のライトが、眩く周囲を照らしている。
警官と救急隊員が慌ただしく行き交っている。
セシルが煌々と回転する、救急車の白とオレンジのライトに向かっていると、「セシル」と、後ろから声をかけられた。
振り返ると、ゼネラルマネージャーのベン・デイビスが「アーロンが……」と零したきり口を閉ざした。
「アーロンが? ベン! アーロンは?」
セシルはベンにすがりつき大声で叫ぶ。
「セシル……アーロンは屋上で発見され、病院に向かっている……」
セシルははっと目を大きく見開き、両手で口を覆った。
「救命隊員が、蘇生措置をしながら病院に……」
ベンは途切れ途切れに言葉をつなぐと、セシルの両手に、小さなサテンのケースを握らせ、その手をやさしく、自分の両掌でつつんだ。
膝の力が抜けたように、アスファルトにぺたんと座ったセシルは、まだ血で湿っているケースをゆっくりと開けた。
ベルベッドの上で、ブルーサファイアが輝いていた。
その光が、セシルの頬を流れる涙に青く反射する。
そのとき、高い空からさあっと風が吹き抜け、「セシル」と、アーロンの声がした。
セシルが空を見上げると、また風が吹いて、セシルの涙をそっと拭っていった。
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