好き。側にいてほしい。

3/11
349人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
隆とみぃちゃんを家まで送り、それぞれの両親に引き渡した後、オレはよく訪れるカラオケボックスへ。 どこのカラオケボックスもだいたい同じような造りだが、今回入ったのは少人数向けの小さめの個室。 三畳ぐらいの広さか? 大きなモニターに、壁に沿うように設置されているソファー。 モニターが正面になるよう並んで座ったオレと千晶。 その距離、約二十センチ程。 薄暗い手狭な空間。 すぐそこには好きな女…。 ……むむむ…… 不謹慎かもしれないが、下心しか湧き上がってこない。 一緒に過ごせることだけで満足なはずなのに…… 身体をもっと寄せたい。 手を繋ぎたい。 肩に手を……いや、腰に回したい。 髪に触りたい。 …………抱きしめたい。 その辺の普通の女なら、遠慮なく体を寄せ、腰を引き寄せ、甘い言葉をちょっと口にしただけで勝手にその気になってくれる。 いいなと思って、ちょっとしたきっかけさえ与えれば、簡単に手に入っていたから、女を落とすなんて簡単なことだと思っていた。 千晶の苦手を克服させることなんて、その気にさせればちょろいと思っていたんだ。 ……あの怯えきった千晶を見るまでは。 ……本当に欲しいと思うものは、なかなか手に入らない。 だから、下心は隠して、一緒に過ごす時間を増やしていく。 千晶のことを知って、オレのことを知ってもらうために。 ……得意な歌でオレの気持ちが少しでも伝われと、オレはラブソングを中心に熱唱していく。 「野村さん、歌うの上手ですね。」 なんて感心するように言ってくれるが…… 好きな人にほめられるのは、それはそれでうれしいのだが…… 気がついて欲しいのは、そこじゃないんだ。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!