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 土曜日の午後3時。朝から忙しくしていた僕が 家で遅めの昼食にありついたとき、ちょうど固定電話が鳴った。 慌てて受話器を取ると、覚えの無い男の声が耳に入る。 「もしもし。(わたくし)、セブテレビディレクターの横島と申します。  そちらは草野 源人(げんと) 様のご自宅で間違いないでしょうか?」 年齢は恐らく40代後半、謙虚な言葉遣いの奥に厄介な自信が潜んでいる。 挨拶を聞いての直感で、そう推測できた。 「はい、本人ですけど……」 怖々と返答した僕を圧倒するかの如く、向こうが流暢に口火を切る。 「なら、話が早いですね。突然で申し訳ありませんが、  超能力者のグレンさんはご存知ですか?」 超能力――。その単語で思い当たる人物が、古い記憶の中に一人。 「え、それってもしかして……小学校の同級生の?」 「はい。私の担当する番組は、著名人が思い出の人と  久々に再会を果たすというコンセプトでして。  この度ゲストであるグレンさんの方から、  草野様とお会いしたいとのことで、ぜひ番組にご出演いただけないかと。  いかがでしょう?」 僕の暮らす地方ではテレビ番組もろくに流れないため、 彼の目覚ましい活躍をこのときまで露も知らずにいたのだ。 快諾することも忘れて、僕は咽び泣いた。 20年越しの再会が決まり、涙を流さぬ人がこの世にいるだろうか。 本名 黒永グレン。少年時代における、僕の唯一の友達だ。
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