67人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
1
土曜日の午後3時。朝から忙しくしていた僕が
家で遅めの昼食にありついたとき、ちょうど固定電話が鳴った。
慌てて受話器を取ると、覚えの無い男の声が耳に入る。
「もしもし。私、セブテレビディレクターの横島と申します。
そちらは草野 源人 様のご自宅で間違いないでしょうか?」
年齢は恐らく40代後半、謙虚な言葉遣いの奥に厄介な自信が潜んでいる。
挨拶を聞いての直感で、そう推測できた。
「はい、本人ですけど……」
怖々と返答した僕を圧倒するかの如く、向こうが流暢に口火を切る。
「なら、話が早いですね。突然で申し訳ありませんが、
超能力者のグレンさんはご存知ですか?」
超能力――。その単語で思い当たる人物が、古い記憶の中に一人。
「え、それってもしかして……小学校の同級生の?」
「はい。私の担当する番組は、著名人が思い出の人と
久々に再会を果たすというコンセプトでして。
この度ゲストであるグレンさんの方から、
草野様とお会いしたいとのことで、ぜひ番組にご出演いただけないかと。
いかがでしょう?」
僕の暮らす地方ではテレビ番組もろくに流れないため、
彼の目覚ましい活躍をこのときまで露も知らずにいたのだ。
快諾することも忘れて、僕は咽び泣いた。
20年越しの再会が決まり、涙を流さぬ人がこの世にいるだろうか。
本名 黒永グレン。少年時代における、僕の唯一の友達だ。
最初のコメントを投稿しよう!