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私の家。
気付いてしまった。
布団の中で、見上げた天井。梁の向こうで、爛々と輝く眼に。
私はすべてを悟った。
【 私の家。 】
祖母が死んだ。訃報に私は、実家へ向かった。
私の実家は、田舎のちょっと大きな屋敷で、小さいころは大きさの割に人のいない屋敷に怯えた。
「怖がってはいけません。付け入れられますよ」
光の届かない物陰を恐れる幼い私を、祖母がよく叱咤激励したものだ。
私は、祖母に育てられた。
母は、私を産んですぐ亡くなったらしい。
口さがない人の話では、母は首を吊って自殺したそうだ。
だからかもしれない。
私は物陰の、殊、傷だらけの梁が一等恐ろしかった。
「あれまぁ、お嬢さんじゃないかぁ」
「ただ今、帰りました」
葬式の仕度をしてくれた近所の人と、普段は遠くに住む分家のおばさんが出迎えてくれた。久々の屋敷は、人が多いせいか私が大人になったせいか特に怖くなかった。
夜、通夜の人々が帰ってから、私も仮眠に床へ就いた。祖母は祖母の部屋で眠っている。明日には棺に入り、灰になる。
最近の線香は、渦を巻いて下から上へ蚊取り線香のように燃える形らしい。とは言え放って置けないので、火の番もすべく祖母の部屋の隣室で私は布団に入って────夜中の二時を過ぎた辺り。
私は、『それ』と目が合った。
祖母は戦争で両親と結婚したばかりの夫を失い、一人で激動の世に屋敷を守って来たと言う。一人で。
何かに守られているようだった、と専ら噂だったそうだ。
そして、私には父がいない。母は自殺する前に付き合っていた男性の影すら無かったと聞いた。
だから、私が生まれたときは驚いたとか。
その私を、祖母は中学に上がるとき、全寮制の遠くの学校へやった。
以降、十年以上、帰っていなかった。
この部屋は母のものだった。
一本、太く残る擦れた跡は母が首を吊ったときのものだろう。
だが、他の、幾重にも在る傷は……まるで獣の爪痕みたいだった。
『それ』が、口を開いた。
「まちわびたぞ……」
私は、祖母を守っていたものも、母の自殺の原因も、私を祖母が追い遣った理由も。
私の出生の秘密も。
圧し掛かる重さに、すべて悟った。
【 了 】
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