Episode1

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 ほとぼりが冷めると、ルージュとアーコは魔法で服を仕立て直す。  次いでオレを元の姿に、アーコも本来のサイズに戻ると林を抜けてラスキャブのところへ向かってぞろぞろと歩き出した。  ラスキャブはオレ達を見るなり「ひゃあ」と悲鳴を上げた。  アーコは檻から解放されているし、その上三人とも拭い忘れた鼻血をそのままにしていたのだから仕方ない。下手に騒いだせいで、商隊にもリホウド族たちにも再び戦闘があったのかと誤解されたが、そこは日課の訓練だとか何とか言って誤魔化しておいた。詳細を説明できるはずもない。  すると、その流れでリホウド族のパーティ一行が恭しくオレ達に近づいてきた。 「ギルド『果敢な一撃ディファイント・ストライク』のバズバと言います。今更になりますが、昼間はありがとうございました」  バズバと名乗ったリホウド族の男は、緊張した面持ちで声を出した。メカーヒーと同じく猫の顔を有しているのに、こちらに与える印象は大分違う。身から出る雰囲気というのは、種族ではなく職業によるのだとつくづく実感させられる。  装備も初々しい傭兵の出す雰囲気というのは嫌いじゃない。 『赤子笑うな、来た道だ』という言葉が頭の中を過ぎった。何だか一気に老け込んだような気持にさせられた。実際問題、お互いの生年月日を思えば孫か曾孫と言っても差し支えない歳の差があるはずだ。その上この緊張は戦士として一目置かれているという態度の表れだろう。それなら尚更悪い気はしない。  格好悪かったが、鼻血を押さえながら応じた。 「『煮えたぎる歌』のザートレだ。護衛同士は良くも悪くも全部が道連れだ。あまり気にしなくていいさ。そもそもあんなところにドリックスが出ることがおかしいんだ」 「なんであれ、アンタがいなかったら俺たちの命はなかったはずだ。今は感謝の念しか渡せないが、いつか同じように若輩を助けられるよう強くなることを誓わせてくれ」 「ああ。十分だ」  特定の誰かにつかない傭兵や冒険者パーティの決まり文句を久しぶりに聞いた。  何かあった時は互いの実力を尊重し合うし、一方的な実力差があるならそれにあやかって誓いを立てて敬う。ともに命のやり取りを経験し、いざという時には金や欲よりも情と腕力が物を言うという事を知っている奴らの作法だった。  俺はバズバの礼儀に報いようと、ドリックスの肉を少し分けてやった。まさかそんな高級品を貰えるとは思っていなかったのか、バズバたちは興奮気味に自分たちのスペースに戻っていった。  バズバたちが離れると、オレはラスキャブに林の中で起こった事の仔細を再びテレパシーで伝えた。  すると、ラスキャブが言った。 (その話を聞いて思った素朴な疑問なんですが・・・) (なんだ?) (ルージュさんとアーコさんって、お幾つなんですか?)  まさかオレが答えを知る訳も無く、ラスキャブと共々二人の事を見た。  草原の岩を背もたれにして座っていた二人は、無言でお互いの顔を見た。しばらく待ってみたが二人から返事は返っては来なかった。  いざこうなってみると、案外いいコンビなのかも知れない。
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