Episode2

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 メカーヒーとの契約で護衛の任についている商隊は、無事に中継のための町に辿り着いた。ここからセムヘノまでの四、五日は完全に野営になるため、水や食料、その他の日用雑貨を買い足す算段だった。  商隊は懇意にしている商人ギルドの会館に着くと、護衛に当たっていたオレ達にここまでの道中の謝辞を述べ、一旦の暇を出した。ギルドの中であれば、万が一盗難などが起こったとしてもオレ達に責任は一切かからない。その間に羽を伸ばしてこいという事だろう。  護衛のような極度の緊張状態は長続きしないし、無理矢理に継続させるといざという時に頼りにならないばかりか、最悪裏切られる可能性も出てくる。まあ、仮にもギルドに属している者しかいないのだから、その名を貶めるような働きをする輩はいないだろうが、ギルドの評判を落としたくないのは『蝋燭の輝き』にも同じことが言えるだろう。  オレ達は有難く、貰った暇で街の中を見て周ることにした。オレは八十年分の世間との認識のズレを可能な限り直しておきたいし、ルージュたちにしてみれば目に映るもの全てが新鮮なはず。この規模の町にも魔族は堂々と闊歩しているので、余計な気を使う心配もないのはありがたい。小さな町だが、物流は盛んなようなので少しは楽しめるだろう。  と、そんなのん気な事を考えたのも束の間。オレは妙な気配を感じ取った。  それは二日前から感じていた、誰かにつけられているかも知れないという雰囲気だ。草原にいた頃は、何となくそんなような気がする・・・というくらいの微かなものだったが、今はしっかりと感じ取ることができた。  すると新たな疑問が浮かんだ。  商人ギルドを離れた後、こっちにくるということは追ってくる奴は商隊の金や積み荷が目的だったのではなく、オレもしくはオレのパーティの誰かを付けているということになる。いや、他の三人の出自を考えれば、狙いはオレと考えるのが一番妥当か?  わざわざテレパシーを送らなくても、ラスキャブまでも気配には気が付いた様子だ。街に入って遮蔽物や人通りが増えたことが、かえって仇になり向こうの気が一瞬緩んだんだろう。 「さて、どうしたものか」 「やはり捕まえてみるのが一番であろう。もしかしたら箱の中身を知っておるやもしれぬ」 「ま、その可能性も残っているな」  言うが早いか、オレ達は走り出す。人混みを抜けていく中、追跡の気配が一層増した。  これは確定だな。  適当な路地かどこかに入って、あぶり出すという古典的な作戦だが、相手が追跡に焦りを感じているのなら案外引っかかってくれるかもしれない。 「あ、そうだ」  その時、アーコが思い出しかのように声を出した。オレの前に躍り出て一つ、指を鳴らす。その刹那、オレの頭と身体の中にじんわりと暖かい何かが入ってくるような、そんな感覚が走った。 「何だ、コレは?」 「プレゼント。ま、仲間になった友愛の証ってやつよ。もう俺を介さなくても、自分の意思で狼に変身できる。何かの役に立つだろ?」 「ああ。それは確かに色々便利だな」  そんなオレとアーコのやり取りがルージュの耳元にも届く。オレが狼の姿を取ることをあまり良しと思っていないルージュは、ほんの少しの間だけ、むうっと顔をしかめていた。
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