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「……うーん」
ベッドで寝返りをうった冬凪は、寝ぼけた頭で今日学校は休みだったよなぁと思う。ただいつもより寝心地が良く、良すぎることが同時に違和感でもあった。とても良い匂いがする。
二度寝する寸前の意識で、薄っすらと目を開けると見知らぬ部屋で寝ていることにやっと気付いた。
「あ、あれ……えっ……?」
驚きのあまり一気に覚醒し、ベッドから飛び起きる。焦りながら昨日のことを思い出していくが、ナラムの家に来ていたことをやっと思い出した。
(え、え、なんでナラムのベッドで寝てるの!?)
さらに夜のことを思い出していく。キッチンを片付けてベランダで夜風を浴びた後、ソファーに座りながら携帯電話を操作していたはずだ。
(あ、そっか。そこで寝落ちしちゃったんだ……じゃあなんでベッドで寝ているんだろう……ナラムは!?)
ベッドから起きてリビングへ行くと、ソファーの上でタオルケットに包まって寝ているナラムがいた。
「ナラム!? 大丈夫!?」
思わず大きな声を出してしまった冬凪であるが、その声でナラムが気付き、起き上がった。
「あ、おはよう。昨日は本当にありがとうね」
「なんでそこで寝てるの?」
「いやー、夜中目が覚めた時に居間が静かだったからさ。見に来たらソファーで冬凪が寝てたからこのままだと風邪ひくなと思って」
「いやいや! 風邪ひいてるのはナラムの方でしょ!」
「俺はもうだいぶ良くなったよ、今も熱はほとんどないはずだし」
そう言うと、テーブルの上に置いてある体温計を手に取り熱を測った。
計測が終わるお知らせ音が聞こえ、ナラムは体温計の表示を冬凪へと見せる。確認するとたしかに37,3℃でかなり良くなっているようだ。
「どう? 嘘はついてないでしょ?」
「でもまだ熱あるでしょ!」
「ほとんどないのと同じだよ」
そう言いながらナラムは笑った。
「あの……それとさ……重かったよね?」
小声でモジモジとした様子を見せながら冬凪が言う。
「ん? ああ、勝手に運んでごめんね。病人の俺でも余裕だったよ。寝顔が可愛かったから起こすのが可哀想で」
爽やかな笑顔が向けられ冬凪はドキリとした。ナラムから、思わず恥ずかしくなるような、こんなストレートな台詞をかけられたことなど今までなかった気がする。
「いきなりそんな……からかわないでよ」
動揺を誤魔化すために外を見る振りしてベランダの窓の方へと向かう。面と向かってナラムと話すことができなかった。ナラムもソファーから立ち上がり冬凪の横に立った。
「そうだ、文化祭ってもうすぐだったよね」
「うん、今準備のラストスパートって感じ」
「楽しみにしてるね」
横目でチラチラ見ながら受け答えする。意識すればするほどより一層ナラムと目を合わせることが出来なかった。
「あ、じゃあ私は一度家に帰ろっかな。また準備しに学校に行かないといけないんだけどね」
「そうだよね。あ、タクシー使いなよ。これで足りるかな?」
そう言うとナラムが1万円を差し出した。
「ありがとう……お釣りは次会った時に返すね」
「別にいいよ。来るときだって大変だったろうし、差し入れ品も貰ったしね」
ナラムは相変わらず表面上変化はなく、まったくいつもと同じ様子だった。少し慌てながら玄関まで行くと、ナラムは笑顔で手を振って見送ってくれた。冬凪もそれに応えて手を振るが結局目を合わせることはできなかった。
最後まで手を振っている様子を傍目に、ナラムの部屋の玄関ドアは完全に閉まった。
(はぁ……ダメだ。やっぱりこれって……。好きってことだよね……)
とりあえず、目の前に控えている文化祭に集中して、その後にキチンと考えないといけないなと思いながら冬凪は帰路を歩きだした。
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