121.大きい海を見に行くんだよ

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121.大きい海を見に行くんだよ

 アガレスが帰ってきて3日目、今日はお休み。パパのお仕事も、僕のお勉強も休みだった。ワニという動物の着ぐるみを着る。緑色で大きな口の中に顔を出すところがあるの! 僕が食べられたみたいになる。抱っこするのはお魚の縫いぐるみで、鱗が布で作ってあった。  アモンが作った服で、マルバスのくれた首飾りをつける。セーレに貰った焼き菓子を入れるのは、丸いバックでアガレスが掛けてくれたの。  パパと手を繋いで、一緒に庭に出る。池を覗いてご飯を入れて、食べる姿を確認してから首を傾げた。青いお魚も減ってるかな? 変なの。 「さあ行くぞ」 「うん! お願いします」  抱っこされて、首にぎゅっと手を回した。落ちると大事件なんだって。人間がいる世界にいくんだよ。そこは前に僕が住んでた世界なの。奥様がいると怖いと言ったら、もういないと教えられた。奥様、どこかへ引っ越したのかな。  知らない人ばかりの街に行って、お買い物したりご飯を食べたりするんだ。プルソンは社会勉強と言ってた。名前はお勉強だけど、僕はお休みだから楽しんで来ればいいみたい。  パパが足下をつま先で突くと、丸い円が出来た。中に細かい文字や模様がいっぱい現れて、きらきらと輝く。僕のパパは凄いな。模様を見ていると酔うから、パパの首にしがみついて目を閉じた。  アガレスの注意はちゃんと覚えてるよ。知らない人について行かない。アモンやマルバスも同じことを言った。プルソンは少し違ってて、パパと手を繋いで離さない、だった。約束したから、抱っこ以外はパパとずっと手を繋いでるよ。 「ついたぞ」  パパがぽんと僕の背中を軽く叩く。目を開けたら、どこかの建物の陰だった。細長い廊下に似てて、両側が建物の壁なの。僕はパパに抱っこされたまま、狭い道を出た。 「うわぁ! いっぱいいる」 「そうだな、まずは海を見ようか」  今日の目的のひとつは、海を見ること。パパと出会うまでの僕は、家から出たことがなかった。狭い部屋が僕のすべてで、外へ出たのは捨てられた時くらい。だから外は全部新しい景色だった。  お魚の池みたいな匂いがする。くんと鼻を動かす。生のお魚の臭いだ。 「海は魚がいっぱいいる場所だ。だから同じ臭いがする。潮の香りと呼ぶそうだ」 「塩の香り?」  お塩に匂いなんてあったかな。ざざーと聞いたことがない音がした。気になって首を伸ばす僕を、パパが肩に乗せた。パパの頭を抱っこして、肩にお座りする。肩車という座り方で、僕がパパより高くなるから遠くまで見えた。  大きい池がある。すっごく大きくて、ずっとずっと遠くまで広がってた。手前にお砂場がある。 「砂浜だな、降りてみるか」  頷いた僕は下ろしてもらって、パパとしっかり手を繋ぐ。離さないように指を絡めて握ったら、パパが擽ったいと笑った。パパが綺麗だから、いっぱい人が見てるよ。 「違うな、カリスが可愛いからだ」 「パパが綺麗だからだよ」  笑いながら砂浜を歩いて、海の水に触ってみた。濡れた指がお魚の匂いになって、舐めたら塩味なの。びっくりした。お魚の匂いがするから、お魚の味がすると思ったのに。
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