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「ユージン」
初めて、金髪のカメラマンのファーストネームを声に乗せてみた。
即座に鼓動が加速し、膨れ上がった想いが乃亜の胸をきりきりと圧迫する。
好きだ。好きだ。好きだ。
本気の恋だと自覚してしまったから、簡単に『好き』が零れ落ちる。
だが、自分は花吐き病の罹患者。片想いを続けることは、花を吐き続けるということ。本気だからこそ、乃亜は絶望に打ちひしがれる。
ユージンを想う気持ちは、もう消せない。『好き』は増していくばかりだが、決して表に出してはいけないし、花吐き病だと知られてもいけない。
乃亜の胸中で、欲望と自制がせめぎ合う。
ユージン・京・リンゼイは、関西での仕事が終われば、彼の居場所へと戻っていく人だ。
歴史専門誌のカメラマンとして、仕事上、必要な知識を乃亜から吸収したいと言っていた。ユージンにとっては、たまたま紹介で知り合っただけの間柄。
けれど、別れが確実にやってくると知っている相手だから、それまでは凛としていたい。
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