第二章 花言葉の疼き

4/5
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「ユージン」  初めて、金髪のカメラマンのファーストネームを声に乗せてみた。  即座に鼓動が加速し、膨れ上がった想いが乃亜の胸をきりきりと圧迫する。  好きだ。好きだ。好きだ。  本気の恋だと自覚してしまったから、簡単に『好き』が零れ落ちる。  だが、自分は花吐き病の罹患者。片想いを続けることは、花を吐き続けるということ。本気だからこそ、乃亜は絶望に打ちひしがれる。  ユージンを想う気持ちは、もう消せない。『好き』は増していくばかりだが、決して表に出してはいけないし、花吐き病だと知られてもいけない。  乃亜の胸中で、欲望と自制がせめぎ合う。  ユージン・(きょう)・リンゼイは、関西での仕事が終われば、彼の居場所へと戻っていく人だ。  歴史専門誌のカメラマンとして、仕事上、必要な知識を乃亜から吸収したいと言っていた。ユージンにとっては、たまたま紹介で知り合っただけの間柄。  けれど、別れが確実にやってくると知っている相手だから、それまでは凛としていたい。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!