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平成十三年(2001年)九月。指定暴力団初代南条組組長南条道彦は死の床にあった。南条道彦の入院先は東応大学医学部附属病院。与えられた病室は要人専用の特に広い個室だった。親族一同は特別扱いのようなものは一切求めていなかったのだが、対立組織の襲撃を警戒した警察当局によって、南条道彦には半ば強引に特別室が与えられたのだった。 病室周辺には暴力団関係者――四代目南条組の構成員らの姿はない。親族が暴力団関係者の立ち入りの一切を拒んだためだ。四代目南条組の組長瀧本武雄以下主だった構成員らは病院の正面玄関前で警官隊とにらみ合いを続けている。 南条道彦の血縁者に暴力団関係者はいない。南条には六人の子――男子四人女子二人――がいるが、いずれも真っ当な勤め人である。無論、三十人を越える孫の中にも暴力団やら半グレ不良の類いはいない。ただのひとりもだ。そのような意味では南条道彦は生き方を間違えなかったとも言えるし、また違う立場――四代目南条組の立場にしてみれば実子の育て方を間違えたと取れぬこともなかった。 南条道彦はこんこんと眠り続けている。 西の空に赤みが差してきた頃、南条道彦はふと目を覚ました。
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