母・さちえ

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 身支度をしていたら、家を出るのが少しだけ遅くなってしまった。 「間に合うかしら…」  途中で濡れながら走ってくる姿を考えると、少し気の毒に思う。まあ、私は警告したんだし、悪くないけどね、なんて心でいい訳しながら先を急いだ。 「えっ?!」  その姿を見かけて、私はとっさに身を隠した。  傘を差し、親にも見せたことない幸せそうな笑顔で校門から出て来たのは、明らかにさとみだった。その横を歩いているあの男の子は、さとる君ね。二人とも傘をさしているところを見ると、さとみは誰かから傘を借りたのかな。  テスト前に風邪でも引いたらかわいそうと思った親心、子知らずってところかしら。でも、私の娘もしっかり青春しているのね。そう思ったら、なぜだかウキウキした気分になってきた。 「邪魔しちゃ悪いし、このまま買い物にでも行っちゃおう」  私はお迎えに来ていた事も忘れて、そのまま駅近くのスーパーに向かう事にした。娘に彼氏が出来たお祝いにケーキでも買っていこう、って、お付き合いしているのか分からないけどね、なんてことを考えながら。  その姿が見えなくなるまで物陰から見送った後、私は踵を返した。  右手に傘を差し、左手にピンクの可愛い傘を揺らしながら。
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