父・さとし

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父・さとし

 仕事帰り、電車に揺られながら、ぼんやりと窓を見ていた。  予報では午後から雨と言っていたが、出勤時には晴れていた。だから、まさか本当に降るなんて思いもしなかった。それくらい、朝は雲一つない晴天だったのだ。 「あなた、傘、忘れないようにね」  朝食を頬張っている僕にそう言っていた妻、さちえの顔が車窓越しに写っているように感じた。  その顔は笑顔だったが、帰ったらその形相は違っているのだろう。そう考えると、急に申し訳ない気持ちになる。  普段は余り気にしていないが、駅を降りてすぐのところに確か洋菓子屋があったはず。そこでさちえの大好きなイチゴショートでも買ってご機嫌取りでもしないとまずいかな、なんてことを考えていると、体が前方に振られ、我に返った。  駅に着いたのだ。
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