七 祭りの後

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「よ!」 「まあ?フォスター、待っていたのよ」 「おお。っていうか。今日はずいぶん……き、綺麗だな」 「そう?いつもこんなもんですよ」 レイア。待ち合わせの木の下で笑顔を見せた。着飾った男は頬を染めた。 「仕事はいいの?」 「ああ。今日は非番だ」 「あなたって。どこの担当だっけ?」 「俺か?王子の側係だよ」 ……はい決定!この男は兵ではないわ。 見かけはいいが、身が細い男。とても兵役は務まらないとレイアは確認した。 「ごめんなさい。つまんない事を聞いて」 「いいんだよ?っていうか。俺達、会うのは祭り以来だもんな」 「ええ。あの時は楽しかったわ。あなたという素敵な人に巡り会えたんですもの」 「そ、そう?」 レイアの演技。男はエヘヘと笑った。 「じゃ、行こうか」 「あ?待って。お金を先に渡すわ」 レイア。背負っていたバッグを探った。男、目を細めていた。 「すまねえな。うちには病気の親がいるんでな」 「仕方ないわよ」 「お前とはその。結婚する気でいるからさ」 「嬉しいわ。プロポーズされたの初めて!ねえ、手を出して、金貨を渡すから」 「ああ……ああ?」 出した手。レイアは鎖をかけた。 「なんだ、これは?」 「あなたを女騙しで捕まえます」 「なんだって?」 やがてここにガルマと本物のフォスター達がやってきた。男は取り押さえられ、地面に倒れた。 「くそ!俺を騙したのか」 「騙したのはそっちでしょう」 悔しそうな男。兵の調べにより指名手配の泥棒と判明した。 「引っ立て!牢屋にぶち込め」 「離せ!俺が何をしたっていうんだよ」 ……あんな見せかけだけの男。先輩…… 騒ぐ男。レイア、黙って見送っていた。 「レイアよ。男は我に任せよ」 「……ガルマ隊長。お願いがあるんです」 「怖いなお前の真顔は」 レイアの願い。ガルマは驚いたがいう通りにしてくれた。 夕刻。管理室、リラは目覚めた。 「大変!デートだったのに」 「お目覚めですか」 「うわ?びっくりした」 「これ。預かりました」 レイアの渡した手紙。リラ、奪うように取った。 『親愛なるリラ様。私は海の向こうへ遠征に行ってきます。任務の事情で二度とこの島には戻ってきません。素敵な思い出をありがとう。美しいあなたの幸せを祈っています。フォスターより』 「……フォスター」 「先輩」 肩を震わせるリラ。レイア、じっと後ろから見ていた。彼女は大きく息を吸うと、手紙をビリビリ破った。 「ふん!あんな男。何が素敵な思い出よ?こっちから捨ててやるわ」 「そうです」 「見た目は良かったけどね?きっと、仕事ができるから。選ばれちゃったのね」 「……先輩」 涙のリラ。レイアはかける言葉もなく部屋を後にした。オレンジ色の庭。眩しかった。 「ね?レイア。遊ぼう」 「ブーセン……人はどうして人を好きになるの」 「え」 「好きになるから苦しいんでしょう?好きにならない方が楽なのに」 黄昏の風。なびく亜麻色の髪。レイアの目は涙で潤んでいた。ブーセン、慰めるように優しく肩に乗った。彼女は洛陽を眺めていた。 「私は誰も好きになりたくない」 「僕も?レイアは僕も好きになってくれないの」 ブーセン。不貞腐れるように肩に乗り足をぶらぶらさせた。 「いいえ?お前のことは好きよ」 「ユリウスは?」 「好きよ」 「マイルは」 「大好きよ!」 「ルカは」 「嫌い」 「うふふ」 妖精は嬉しそうに笑った。レイア、むすとした。 「どうして笑うの」 「レイアは無理!好きになるのは止められない」 「ブーセン?」 「ふふふ。僕はレイアが大好きだよ」 抱きついてきた妖精。レイアは赤ん坊を抱くように愛しく抱いた。 地平線に沈む太陽。レイアにはそれがリラの悲しみのように見えた。 ……私は。恋をして苦しんだりしないわ。決して。 乙女の誓。それを守るかのように太陽は西にへと進んでいったのだった。 完
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